東京都のキャンプ場キャンプ場紹介・利用体験記

都立多幸湾公園ファミリーキャンプ場に泊まってみた感想:辛苦の先に、温かいおもてなしと素晴らしい星空が待っていた【神津島】

神津島の都立多幸湾(たこうわん)公園ファミリーキャンプ場を利用してみたので、現地の模様を写真で紹介しつつ感想を書いてみます。筆者が使わせてもらったフリーテントサイトについては、利用上の制約事項が多く(後述)、冬は猛烈な風も吹くため、キャンプ慣れしている方向けの施設かと思います。しかしそのハードルの向こうに、素晴らしい体験が待っていました。

都立多幸湾公園ファミリーキャンプ場のフリーサイト

多幸湾キャンプ場の利用方法

多幸湾キャンプ場は完全予約制です。利用開始日の5日前までにまず電話にて空き状況を確認し、空きがあれば公式サイトから、

  1. 利用同意書(WordまたはPDF)
  2. 宿泊者名簿(ExcelまたはPDF)

の2つのファイルをダウンロードし、必要事項を記入してメールにて管理事務所に送信します。その後、管理事務所から予約完了のお知らせがメールで届く、というフローです。

そのため「天気が良さそうだから明後日行こう」という衝動的な感じの利用はできませんし、ネットでの予約はできず電話での確認が必須であるところも敷居の高さは感じます。また、チェックイン時間が14時〜16時の2時間に限られるところ(2024年1月現在)も旅の組み立て上、難しいところがあります。

例えば訪島初日に天上山を歩きたい場合、チェックインが時間ギリギリになってしまいますし、すると冬は日没も近いのでテントの設営が難しくなります(後述しますが、夜間照明が最低限であり、風も強いことがあるのでキャンプ初心者の方には難易度が高いと思います)。

しかし筆者が利用させていただいたフリーテントサイト以外に、既設のデッキテント(写真下)を利用するオプションもあります。寝袋や毛布の貸出しもあります。テント泊経験は少ないけれど、キャンプサイトを拠点にして天上山トレッキングを楽しみたいという場合などは、デッキテントを使わせてもらったほうが安心かもしれません。

多幸湾キャンプ場のデッキテント

このように利用ハードルは高いものの、スタッフさんが24時間常駐されており、温水シャワー・自販機・電子レンジ・電気ポット、洗濯機と乾燥機(有料)も使えたりと、設営が済めば快適な時間を過ごせます。

特に温水シャワーがあるのは、都が管理する伊豆諸島のキャンプ場では大島の「海のふるさと村」とこの多幸湾キャンプ場だけでしょう(全体的な運営も「海のふるさと村」によく似ています)。シャワーが使えると気持ちよく眠れるので、連泊時は体力を保てます(※連泊は最大3泊まで)。

多幸湾キャンプ場へのアクセス

多幸湾キャンプ場は、神津島の東に位置する多幸湾(三浦漁港)のすぐそばです。神津島は冬の西風が強烈なので、東海汽船の船は西の神津島港(前浜港)ではなく、多幸湾の発着になることが多いです。その場合、徒歩10分ほどで来られます。神津島港からなら徒歩で40分〜1時間かかりますが、キャンプ場の入口近くまでバスが出ています。

■ 多幸湾キャンプ場付近の地理院地図(拡大・縮小できます)。プラスの記号がキャンプ場の位置

現地で撮った地図看板の写真です(少しぼやけていてすみません)。神津島港から歩いてくる場合、ルートが2通り考えられますが、どちらも峠越えを含みます。

多幸湾付近の地図

下は多幸湾の埠頭からキャンプ場方面を見たところ。埠頭の直線上の山のふもとに多幸湾キャンプ場があるイメージです(木陰に隠れていて、キャンプ場はここからは見えません)。

多幸湾から見たキャンプ場の位置

多幸湾キャンプ場に泊まってみた

ここからは2024年1月、筆者が実際に多幸湾キャンプ場を利用した時の記録と感想です。この日は東海汽船の「さるびあ丸」にて多幸湾で下船。実はこの数日前に訪島する予定だったのですが、海況が悪くさるびあ丸が欠航になってしまったため、管理事務所に電話して宿泊日の変更をお願いしたところOKをいただき、2日後に再チャレンジしました。

東海汽船の運行状況ページ

東海汽船の運行状況ページから。旅は一度仕切り直しに

最初、埠頭を出てすぐ右の急坂を歩いていったのですが、行き止まりになったように思えました。本当は途中にキャンプ場への近道があったらしいのですが、見逃したようです。とりあえず正面玄関から入ることにして、一度埠頭まで戻ってから今度は坂を左に上っていきました。少し登ると右手に分岐があり、「都立多幸湾公園」を示す看板が出ていました。ここから入ります。

多幸湾キャンプ場への入口(バス停側)

ここがキャンプ場入口です。右の道は、先に書いた「近道」がここに通じているようです。中央の道はキャンプ場受付のある「日向(ひゅうが)ロッジ」に至り、左の道は天上山・黒島登山口に至ります。フリーテントサイトは左の竹垣の向こうにあります。

日向ロッジへの入口

キャンプ場の全体図です(クリックで拡大できます)。赤丸の「現在地」が上の写真の三叉路のあたりです。

都立多幸湾公園案内図

これが日向ロッジ。実は2024年1月現在、多幸湾キャンプ場は改修工事中で、本来「サービスセンター」にあるキャンプ場受付がこのロッジに移されているとのことでした。このロッジ内はトイレやシャワー、洗濯機等があり、24時間中に入れます(シャワーの利用は夜10時まで)。トイレは少し先に、屋外トイレもあるのですが、フリーサイトからはロッジのほうが近いです。

日向ロッジ

ロッジ前にあるグリーンの大型テントの中にはジュースやビール等の飲料自販機がありました。

日向ロッジ前の自動販売機

受付で一通りの施設説明を受け、チェックインを済ませ(カード払い可)、フリーテントサイトに向かいます。サイトは二段になっていて、下段には炊事場があります。上段はこの時、一部改修工事中でした。スタッフさんに「風が強いので下のほうがいいですよ」とアドバイスをいただきました。区画指定はなく、フリーサイト内ならどこに設営しても良いことになっています。

フリーテントサイト

さて、なんとか下の写真のようにDoD ライダーズワンポールテントを立てられた…のですが、この日の設営は困難を極めました。爆風でフライシートが飛び、場所決めで仮打ちしていたペグも外れます。本気でペグダウンしたら、また猛烈な突風が吹き、あまりの勢いにペグがどれも曲がりました。重そうな石を急遽集め、風が凪ぐまでフライが飛ばないよう手で引っ張って耐え、わずかな凪のタイミングでペグをまた打って石を乗せるという、冬山の稜線上のような設営でした。

フリーテントサイト(下段)

もしこの日が私にとってはじめてのテント泊だったら、あるいはこのDoDのテントをはじめて使う日だったら、設営できなかったと思います。写真からは全然伝わりませんが、大変な西風が回りこんできていました。新島の羽伏浦キャンプ場でも風と格闘しましたが、その比ではありませんでした。ここは、私のようなキャンプ初心者に毛が生えたような者は来てはいけなかったのかもしれない、と思いました。

閑話休題、こちらが炊事場です。先の風の話からも想像できると思いますが、焚き火は許可されていません。炉はあるのですが、風を考えると使おうとは思いませんでした。調理は持参したバーナーで主にテント内で行いましたが、砂の吹き込みもすごかったので、たまに寒いなかこの炊事場で煮炊きしたりしました。

フリーテントサイトの炊事場

そういえば、この時に限ってかもしれませんが野生動物の姿は見かけませんでした。

木段をのぼって上段のサイトを眺めてみました。フリーサイトは全体で20〜30張のテントに対応するそうです。サイズ感・キャパシティ的には、八丈島の底土野営場に近いと思います。三宅島の大久保浜キャンプ場よりはずっと広いです。

フリーテントサイト(上段)

下段のテントサイトは竹垣で道路と隔てられています。

フリーテントサイトの竹柵

道路に出る道は下の写真の生け垣のあいだか、テントサイト上段への入口の2カ所。夜、ロッジのシャワーやトイレを借りに行く時は下の道を通りました。設営が天候によってはかなり難しいこと、暗い場内のレイアウトを覚えておく必要などから、チェックインが午後4時まで、というのは至極当然の制限だろうと感じました。

フリーテントサイト下段から道路への近道

夜に道路の反対側のロッジに歩いていくわけですが、神津島は星空保護区ということもあってか、このキャンプ場も夜間照明は最低限でした。下のランタンも低照度で、夜に歩くには慣れるまでヘッデンか手持ちランタンが必要でした。

フリーテントサイトから日向ロッジへの道

夜はこれくらいの暗さになります。奥の炊事場以外は漆黒の闇という感じです。

夜の多幸湾キャンプ場

しかしこの暗さのおかげで、東日本随一とも言われている素晴らしい星空を楽しめたのでした。この星空を見た時、このキャンプ場の様々な制約の意味がわかりました。大変だったけれど、来て良かった… としみじみ思いました。同じ東京都の若洲キャンプ場では、こんな星空は見られません。

多幸湾キャンプ場の星空

■ 神津島の星景については下の記事でも紹介しています

星空保護区の神津島で冬の星景写真を撮ってみた【ダークスカイアイランド】SUMMILUX 9mm / F1.7
神津島(東京・伊豆諸島)は、東日本では光害(ひかりがい)がトップレベルで少ないことで有名です。そのため星空が美しいと聞いていたので、今回の天上山ハイキング旅行(2024年1月)では少し真面目に星空写真を撮ってみようと思ったのでした。 ...

翌朝は日の出とともに天上山ハイキングに向かいました。この道が黒島登山口に至るのですが(その先で白島登山口にも通じます)、下の写真に見えている建物が改修中のサービスセンター。本来はここにある様々な機能(受付・売店・シャワー・自販機・ラウンジ等)が、筆者の利用時は日向ロッジに一時的に移されていたというわけです。改修工事は2024年6月末まで行われるようです。

改修中のサービスセンター

サービスセンターの道向かいには、有料の多目的広場があります。野球やサッカーなどに使えるようです。下の写真は多目的広場を南の入口から眺めたところで、奥に見えているのが天上山(最高点572m)。西側には高処山(たこうどやま)という標高290mの山もあります(「高処」と「多幸」の関係が気になります。多幸は当て字なのでしょうか)。

多目的広場と天上山

キャンプ場入口の近くには「展望広場」があり、多幸湾を見渡せました。ちなみに船客待合所の近くには有名な「多幸湧水」があり、そこで神津島のおいしい水を汲むこともできます。

展望広場から見た多幸湾

利用ハードルの高さには理由があった

さて、実際に多幸湾キャンプ場させていただいて思ったのは「利用ハードルの高さには理由がある」ということでした。たとえばテント泊未経験の方が、よく計画を立てずに安易な気持ちで夕方にふらりとやってきて、現場の様子を知らずにフリーテントサイトを使おうとしたら、天気によっては惨事になりかねないだろうし、管理側も困るだろう、と思いました。

多幸湾キャンプ場のフリーテントサイト

チェックイン時間内であれば売店でカップラーメンのような軽食は手に入りますが、神津島は基本的に西の神津島港(前浜港)の近くにしか人は住んでおらず、多幸湾キャンプ場の近くには商店・飲食店などはひとつもありません。買い出しは前浜の集落にある個人商店や、全日食チェーン系の「まるはん」さんなどで済ませておく必要があります。

予約の手続きは伊豆諸島の他のキャンプ場に比べると複雑ですし、テント設営の難易度も高いと思います。しかしそれを乗り越えた先には、生き返るような温かいシャワー、降ってくるような星空がご褒美に待っています。また山歩きが目的であれば、無理をせずに設営済みのデッキテントに泊まらせてもらう手もあります。

筆者はとりわけ風と寒さがひどい時期に連泊したので、スタッフの方々に「あのひと大丈夫だろうか…」とご心配をおかけしてしまったかもしれません。とても親切にしていただき、チェックアウトの時にいただいた宿泊記念缶バッジは宝物になりました(いろいろあった中から、キンメダイの絵柄を選びました。よっちゃーれセンターで食べた金目煮付定食が美味しかったからです)。

多幸湾キャンプ場を拠点にして、天上山を含め、島のあちこちを回りました。夜は、郷土資料館で購入した「神津島のお年より作文集」をテントの中で読みながら良い時間を過ごせました。

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著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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