山のコラム

山のテーマパーク化について思うこと

埼玉県・飯能市に柏木山(かしわぎやま)という低山があります。近くの多峯主山・龍崖山とともに「飯能三名山」の一つとも言われます(詳しくは下の記事で紹介しています)。

柏木山:独りになれる秘密基地のような飯能三山の主峰
柏木山ってどんな山? 柏木山(かしわぎやま・303m)は多峯主山・龍崖山と合わせ、飯能では「飯能三山」または「飯能三名山」と呼ばれています。飯能の駅から若干距離があるせいか、大人気の山という感じではないのですが、優しい雰囲気の広葉樹が...

私はこの柏木山が大好きなのですが、いつ頃からか、歩いていて微妙な違和感を覚えるようになっていました。

人気のある手作りの制作物

柏木山には数多くの手作りの制作物があります。登山口のある駐車場から既に、下のような動物のオブジェがハイカーを歓迎してくれます。木の形状が活かされ、角や目が釘で巧みに表現されており、独特の魅力がある作風だと思います。

柏木山の手作りオブジェ

手書き文字の味わい深い道標も随所にあり、杖も用意されています。これらはすべて柏木山を愛する有志の方々の手によるものと聞いています。より多くの人々に柏木山を楽しんでもらいたい、というこれらの労力には、いちハイカーとして感謝しかありません。

柏木山の手作り道標

山頂で見られるこの三人楽士のオブジェは人気が高いと思います。たまにYAMAPなどを見るとほとんどの人がこの写真を撮っています。心が和む、優れた造形作品であるのは間違いないでしょう。

柏木山の手作りオブジェ

違和感の正体

しかし私が名状しがたい微妙な気持ちを持つようになったのは、木にスプレーで案内が描かれているのを目にした時からだと思います(写真下)。私が山を訪れるのは、人為から離れて自然を楽しむためですが(その自然は人の手によって整備されたものではあるとしても)、この木においては自然と人間との微妙なバランスが崩れ、人間の存在感が強くなりすぎているように見えたのです。

樹木へのスプレー落書き

木に直接スプレーするのでなく、札に何か書いてヒモで括りつけておくくらいのほうが丁度良いのではないか、と思いました。しかし「札を木に巻き付けるのと、直接スプレーするのとで何が違うのか。どちらも人間の仕業だとわかるし、どちらがより無粋とも言えないだろう。スプレーして何が悪い」と言われたら、うまく反論できる自信がありません。

下の切り株にもやはり、男坂と女坂を示す、親切な(?)記号(♀・♂・急など)がスプレーされています。

切り株へのスプレー

なぜ私は、これらの「インスタ映え」しそうな素敵な制作物を前にして、微妙な居心地の悪さを覚えるようになったのか。なかなかうまく言葉になりませんでした。が、下のカモシカのオブジェを眺めていて、その違和感の正体がちょっとだけわかってきました。

かもしか新道のオブジェ

それは一言で言うと「山のテーマパーク化」です。観光施設化・遊園地化とも言えるでしょうか。テーマパーク自体は、別に悪くも何ともありません。整備された登山道のある山は、多かれ少なかれテーマパーク的な側面を持っています。伊豆ヶ岳のクサリ場にしても、テーマパークのアトラクションのようなものだと言われたら反論できません。

しかしその側面が第三者によって強調されすぎたり、方向性が限定的なものになったり、嗜好が個人の趣味に傾いて行くと、山の「自然感」はだいぶ失われてしまいます。

昨年(2021年)末、柏木山のこれらの制作物について、飯能市役所・森づくり推進課が通告文を掲示していました。

飯能市からの通告

本地は飯能市が管理する土地であり、管理者に無断での工作物の設置、立木の伐採や立木への落書き、商用目的での山野草の採取、土地の改変等は固くお断りしています。

これらの行為をただちに中止し、令和3年12月末までに撤去等を行い、下記までご連絡いただきますようお願いします。
なお、期限までに撤去等を行わない場合は、市により撤去等を行う場合があります。

令和3年11月30日

飯能市によるこの対応は、善意で山を整備・装飾してくれる方々へのひどい仕打ちである、あれらのオブジェが姿を消すのは寂しい、とする意見、あれはやりすぎだから仕方がない、という意見、どちらも見聞きしました。

私が山に出掛けて行くのは、主にこうした潜在的ないざこざや揉め事、意見や思想の食い違いから発生する「ドラマ」から縁遠い時間を過ごすためです。都市に見られるような人工物、人為的物体からも、できるだけ離れるためでもあります。

今年(2022年)春に柏木山で見た、飯能市による新たな通達文によると、整備活動をされている有志の方々と市とのあいだで、一定のルールに基づいた整備の方向性が協議されているとのことでした。良い方向に決着してくれるのを期待するばかりです。

著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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