山の動植物

三宅島で最も印象に残った鳥がハシブトガラスだった件【生態系の難しい問題】

最近、伊豆諸島で3番目に大きい火山島・三宅島(みやけじま)に遊びに行きました。三宅島といえば「アカコッコ」が島のシンボルとして大変有名なのですが、秋から冬にかけてはあまり姿を見せない(島内の標高の高い場所や伊豆諸島北部に移動するらしい)そうで、私の訪問時(2023年10月)も鳴き声は耳にすることはできたものの、目撃することは一度もありませんでした。

ガイドブックでは紹介されていない三宅島の有名な鳥

しかし、三宅島では思いがけない別の鳥が強烈な印象を残すことなりました。それはまさかのカラスです。下は大久保浜キャンプ場(紹介記事)のあちこちに掲示されていた貼り紙で、キャンプ場を離れる時は食料や食べ物のゴミを放置しておくと荒らされるので注意して下さい、という主旨の警告がなされていました。ユーモアセンスのある、秀逸なイラストですね!

三宅島のハシブトガラス

確かに、三宅島ではかなり多くのカラスを見かけていたのです。暗いなか錆ヶ浜港の坂道を登りはじめてまもなく、頭のすぐそばをまるで並んで歩くように一羽のカラスが滑空してきたので、まず驚いたのを覚えています。距離感が近い。その後、伊豆大島や八丈島では見たことがないほどの、数十羽からなる大きい群れを島のあちこちで見かけました。カラスが多い。有意に多い!

大久保浜キャンプ場にもたくさんいて、朝は日の出とともに私のタープ近くの電線にやってきた一羽が、大声で鳴きはじめました。「おいみんな、そろそろ朝メシを狩れるぞ。観光客が来ているぞ」とでも仲間に伝えていたのでしょうか。

三宅島のハシブトガラス

このカラスの多さについては、私が事前に読み込んでいた様々な三宅島観光資料では全く触れられていなかったので、新鮮な驚きでした。まあ、普通に考えて観光パンフレットで「我が島はカラスの楽園であり…」などと紹介をするわけがないですけれども(私自身はカラス、好きですが)。

人馴れしているが警戒心も強い

下は島の西部、阿古(あこ)地区にある「火山体験遊歩道」を散策している時に遭遇したカラスの群れです。三宅島のカラスはだいぶ人馴れしている印象があり、かなり近くを歩いても逃げないのですが、こちらが立ち止まったり、視線を向けたり、カメラを向けたりするとすぐに飛び立ちます。すごく距離感が近いのに、同時にものすごく警戒もしている感じです。

三宅島のハシブトガラス

下も火山体験遊歩道で撮影したカラスの群れ。ここだけで100羽以上いたと思います。ハシブトガラスなのか、ハシボソガラスなのか? 鳴き方を観察していると、頭を上下に激しく振っている個体も多く、するとそれはハシボソガラスの特徴なのですが、ネットで調べてみると三宅島のカラスの大部分はハシブトガラスなのだそうです。

三宅島のハシブトガラス

広角レンズで撮影した写真を無理やり拡大してみると(写真下)… 確かにオデコが隆起していて、クチバシも太いのでハシブトガラス(jungle crow)であるようです。この写真も、カメラを向けてノールックでシャッターを押した直後、全個体が警戒して飛び立ってしまいました。

三宅島のハシブトガラス

三宅島にハシブトガラスが多い理由

三宅村自然ふれあいセンター「アカコッコ館」を訪れた時、常駐されている日本野鳥の会のレンジャーさんに「三宅島はカラスが多くないですか?」とお伺いしたところ、「実はそれには理由がありまして…」と、「ヒキガエル」の話をしてくれました。えっ、カエルとカラスにどんな関係が?

アカコッコ館

アカコッコ館のレンジャーさんにカラスが多い理由を聞いてみた

三宅島には大量のヒキガエルが生息しており、しょっちゅう道路に出てきてはクルマに轢かれてしまう。しかし、人が路上でそれほど大量のヒキガエルの轢死体を目にすることはない。というのも、それらはすぐカラスに食べられてしまうからなのだそうです。大量のヒキガエルが、三宅島のハシブトガラスの食を支えているようなのです。エサが豊富、というわけです。

すぐに思い当たりました。三宅島に到着して、最初に私の記憶に残ったもうひとつの生き物がヒキガエルだったからです。すごく大きい。道路の上でボ〜ッとしている生きた個体も見ましたが、下の写真のように、クルマに轢かれてしまったものも目撃していたのです(一部モザイク)。

三宅島のハシブトガラス

三宅島にはもともと両生類はいなかったらしく(ちなみに蛇も大型のものはいないらしい)、ヒキガエル(アズマヒキガエル)は人為的にもたらされたものらしいです。それを糧として、ハシブトガラスが大繁殖する。

三宅島のアカコッコが絶滅危惧種になった理由は雄山からの有毒ガス以外にも様々あるようで、農業に打撃を与える野ネズミを退治するためにやはり人為的に放たれたイタチ(私も三宅島で見た)も原因になった。アカコッコはミミズが好物で、地面の低いところで餌を探すらしいのですが、その高さがイタチにとっては捕食の際に都合が良かった。加えてイタチは木登りも上手なので、巣まで襲われてしまう。

それに加えて、ヒキガエルもミミズが好きらしいので、アカコッコの餌は減ってしまう。餌の奪い合いになる。

ヒキガエルを食べるカラスも、アカコッコを襲って食べることがあるそうです。かといってカラスが極端に減ると、今度はヒキガエルが増え続けてしまい、アカコッコが減るだけでなく、農業用の貯水池などにヒキガエルの死体が溜まって島民の方々が大変な思いをすることもあるようです。

ヒキガエルが減れば、アカコッコの数は増えるだろうか。するとヒキガエルを食べられなくなったカラスがアカコッコを襲うようになるのだろうか。

こちらを立てればあちらが立たない。と、三宅島の生態系のバランスはかなり複雑なことになっているな、と思ったのでした。そういうことをあらためて考えさせられただけでも、三宅島は行ってよかった島でした。

三宅島のハシブトガラスの数は、それにしても異様に多く思えました。身体の動かし方や鳴き声が東京都内で見かけるものとは、だいぶ違うように見えました。三宅島で独自の進化を遂げつつあるのでしょうか。一般的には嫌われ者なのかもしれませんが、三宅島のハシブトガラスの生態に私は大きい興味を持ってしまいました。

著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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