天覧山と多峯主山ってどんな山?
天覧山(てんらんざん・197m)は奥武蔵エリアで最も入門者向きの山と言えるでしょうか。コンクリートの展望台からの眺望は絶景ではありませんが、好天なら飯能の町並み、東京都下や奥多摩、富士山などが良く見えます。山頂手前のプチ鎖場も良いアクセントになっていて、コンパクトにまとまった変化のある時間を楽しめます。優しい味の具だくさんお味噌汁、という感じの山。
かつては海底だった地層が隆起して生まれた山であり、チャートと呼ばれる生物死骸由来の岩もちらほらと露出していますが、老若男女が安心して登れる山でしょう。十六羅漢という見どころもあります。古くは「あたご山」その後は「羅漢山」とも呼ばれ、明治一六年(1883年)に明治天皇がこの山から軍事演習を統覧したことが、現在の山名の由来になっています。
天覧山まで来たら、わずか一時間足らず先の多峯主山(とうのすやま・271m)にもセットで登っておきたいところ。山間の谷道も楽しめるだけでなく、多峯主山頂からの展望はスケールがワンランク上で、頑張って登ってきて良かったと思うに違いありません。人と自然の共生を強く感じさせる山です。
大きめのテーブルやベンチがある山頂は比較的広く、大休止にも良いです。座りやすい石もたくさんあります。固有種の「飯能笹」が発見された道中の「見返り坂」や、山頂への直登の石段も、歩きでがあります。見どころとしては直径20mの雨乞池や大名・黒田直邦の墓などがあります。
多峯主山は入間川を挟んで向こう側にある龍崖山・柏木山とともに「飯能三名山」と称されることもあります。どれも眺望が優れた山なので、登ってみると納得するでしょう。
主な登山コースとアクセス情報
天覧山までは西武池袋線・飯能駅やJR八高線・東飯能駅からそのまま歩いて行けますが(約20〜30分)、登山口下までバスも出ています。飯能駅から天覧山までは少しわかりにくいのですが、飯能銀座商店街を通り「能仁寺(のうにんじ)」を目指して歩くと良いです。道中の「観音寺」からは直進しても良いですが、左折して飯能市立博物館の前を通るのも良し。するとトイレ・自販機のある中央公園に出るので身支度もできます。
■ 天覧山・多峯主山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)
ハイキングルートとしては約3時間強の天覧山・多峯主山周回のほか(多峯主山の手前に分岐路があり帰路は少し違う道を選べる)、日和田山から高麗峠を経て天覧山に縦走してくるルート、多峯主山から御岳八幡神社方面に下り、吾妻峡の「ドレミファ橋」を渡り、柏木山や龍崖山に繋げるルートもあります(帰りは吾妻峡の清流歩きも楽しめる)。
私が歩いた天覧山と多峯主山
飯能駅からの道のりは、早朝だと飯能銀座のお店も空いていないし、天覧山中段(登山口)までの登りも舗装だったりと、正直あまり面白みがありません。しかし十六羅漢が現れると、急に心が落ち着いてきます。
展望台下の狭い鎖場は、ささやかですがワクワク感があります。この鎖場から既に眺望が良いです。最後に訪れた時は、毎朝何十年もこの道を散歩しているという方に、この鎖場で飯能の歴史をいろいろ教えてもらった思い出があります。あれは棒ノ折山、あれは蕎麦粒山……と、山座同定もしてくれた親切なおじさんでした。
天覧山の山頂から北に下る道は結構急で、その先の「天覧入」と呼ばれる湿原の谷道はどことなく幽玄な雰囲気があり、実際の距離よりも不思議と長く感じられます。
多峯主山頂前には鎖のあるザレ場もありますが、大人は石段を登るようにとの看板があります。鎖は子供用のレクリエーションとして設置してあるようです。石段のほうはわりと急なので、雨乞岩から巻いて登る人も少なくないようです。
多峯主山の山頂は、いつ来ても新鮮味があります。単に眺望が良いとか、広々としている、という言葉ではうまく表現できません。いろいろな気持ちよさがギュッと濃縮されている感じがして、好きなのです。また行きたいなと何度も思い、実際に何度も行きました。駅近で人気の山なので、山頂に人がいなかった試しはないですが、独特の静けさが漂っているようにも思います。
手頃な岩に尻パッドを敷いて休憩していると、大体、裏の藪から野鳥の大きい鳴き声が聞こえてきます。特にソウシチョウが多いように思います。もともと日本にはいなかった鳥であり「侵略的外来種ワースト100」の1種という不名誉な肩書で知られていますが、愛らしい鳴き声で、あまり警戒せずに足元に寄ってきたりもします。双眼鏡を持ってくるとより楽しめます。
筆者の場合、多峯主山の後は柏木山に向かうことが多いです。山頂の雰囲気にはどことなく通じるものがあるように思います。