ハイキングコース紹介埼玉県の山

秩父御嶽山:駅から駅で奥秩父の静けさを気軽に楽しめるマイナーな山

秩父御嶽山とは

秩父御嶽山(ちちぶおんたけさん)は埼玉県秩父市と秩父郡小鹿野町との境界にある標高1080mの山です。木曽御嶽山と区別して秩父御嶽山と呼ばれていますが、地元での呼称は御嶽山。木曽御嶽山の王滝口を開いた普寛(ふかん)行者が近くの落合の出身で、秩父御嶽山の登拝路を開いたとされています。眺めの良い山頂には普寛神社の奥宮があります。

御嶽神社(秩父御嶽山)

「埼玉県の山」(打田鍈一著)によると、秩父鉄道三峰口駅から強石バス停までの距離は9.5km、コースタイムは4時間15分。コース定数は20。秩父の名峰・武甲山(1304m)と比べてみると、一の鳥居から浦山口駅に至るコースが同じ9.5km、所要時間は5時間15分、コース定数は21。筆者が歩いてみても武甲山より体力的には少しだけ優しく、比較的短時間で歩けると感じました。

秩父御嶽山へのアクセス情報

往路・復路とも秩父鉄道・三峰口駅を利用します。

■ 秩父御嶽山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)

「埼玉県の山」では下山後に「強石(こわいし)バス停」の利用が紹介されていますが、午前と午後それぞれ2便のみ。午後便については平日が15:52と16:39のみで、土日・祝日は14:49, 16:37の2本のみです(2023年2月現在)。しかし強石バス停から三峰口駅までの距離は2kmほどなので、計画にはプラス30分を見積もって三峰口駅まで歩いても良いでしょう。

三峰口はターミナルだけあって秩父鉄道の中では大きめの駅で、コンビニこそないものの食堂がいくつかあります。駅の自販機では珍しく(?)PASMOも使えるようになっています。

私が歩いた秩父御嶽山

筆者はこの日はじめて秩父御嶽山を歩きました(あまり特徴のない山という印象を持っていたので後回しになっていました)。三峰口駅には8:16に到着。標準コースタイムが4時間15分と短いので、ゆっくりのんびり写真を撮りながら歩くことにしました。

三峰口駅

三峰口駅を出たら右折し、荒川に架けられた白川橋(しらかわばし)を渡ります。

白川橋

白川橋を渡ったら国道140号線を右折します。すると歩道橋が見えるので(隣にバンジージャンプの「秩父ジオグラビティパーク」という施設あり)それを渡ります。そこは秩父往還の宿場町として賑わった贄川宿(にえがわじゅく)の入口で、「贄川宿観光トイレ」があります。これを左折すると御嶽山登山口が見えてきます。

贄川宿観光トイレ

贄川宿には人間さながらの格好をしたカカシがたくさんあり、ギョッとさせられます。何体かに挨拶しそうになりました。ちょっとした名所です。

御嶽山登山口

序盤はまあまあの急登です。秩父御嶽山のこのコースは序盤が険しめの勾配、その後は長く緩やかな尾根道が続き、山頂前のいくつかのピークになってから再び急登、という構成です。しかし急登といっても、たとえば武甲山を登れる方なら問題ない程度だと思います。

秩父御嶽山・登山道

登山口に入ってすぐ「即道上人の墓」があり、過ぎると「一番高岩(いちばんたかや)」という見晴岩に出ます。狭いながらも開放感と満足感の高い高台で、三峰口の町を一望できます。ここからはお隣の熊倉山や武甲山の姿も見られます。この後に「二番高岩」もあります。

一番高岩

長く特徴のない尾根道が続きます。「埼玉県の山」の打田氏によると「やや単調」とのことで、確かにそのような印象。逆にいうなら、あまり張り詰めなくとも長時間「いい運動」ができる道です。ただ、私が訪れた2月中旬は落葉の量がすごく、何を踏んでいるのかよくわからずスリップもしやすかったのでそこは注意したほうが良いでしょう。

秩父御嶽山・登山道

猪狩山・古池からの道が合流する「タツミチ」の分岐付近からは急登気味になってきます。山頂までは3〜4のピークを経たと思います。

秩父御嶽山・登山道

山頂が近くなると尾根が急激に痩せてきます。風が冷たく、風が消えると完全な静寂に包まれます。マイナーな山なせいか踏跡も少なく、とにかく静かな山だな、という印象を持ちます。ちなみにこの日は他の登山客は全く見かけませんでした。雪上にはシカの足跡やフンがたくさん見られました。

秩父御嶽山・登山道

強石分岐を過ぎると構造物が見えてきました。御嶽神社です。

秩父御嶽山頂・登山道

普寛神社奥宮前の石段は狛犬の手前で完全に崩壊していたため、狛犬の右側から回り込んで登りました。

秩父御嶽山頂・登山道

ここの狛犬は風格があって立派です。

秩父御嶽山頂・登山道

普寛神社の奥宮は、風雪で傷んでいるところもあり小さいのですが、威厳と風格が感じられます。奥には半分以上錆びてしまっている展望盤があり、北北西には両神山がよく見えます。

秩父御嶽山頂・登山道

両神山を中望遠で撮影。見切れていますが、二子山も見えました。

両神山

雲取山・小鹿野町なども見渡せる大展望です。しかしだいぶ枝が伸びたのか、周囲を360度バッチリ見渡せる感じではありません。熊倉山側はあまり見えません。それでも、良い眺めです。レインウェアを羽織り冷たい風に吹かれながら、ここでのんびり写真を撮って過ごしました。

秩父御嶽山頂

なお、奥宮の向こうには落合に至る道があるのですが、そちらは車道歩きが長くなるそうです。強石分岐まで戻り、今度は強石方面に下っていきます。すると最初はゆるやかで日当たりの良い、気持ちの良い尾根道です。

秩父御嶽山・登山道

しかしほどなくしてかなりの痩せ尾根になります。ロープやクサリが登場し、写真では伝わりにくいかもしれませんが、滑落したら完全にアウトな箇所もありました。道幅は余裕があるのですが、枯葉の下の浮石でうっかり滑らないよう気を付けたほうが良さそうです。ザレもガレもあまりない山ですが、落葉が最大の強敵です。

秩父御嶽山・登山道

痩せ尾根の下りが一段落したところで、振り返ってみました。逆周りに歩くと前半がかなりキツめのコースになりそうです。

秩父御嶽山・登山道

途中、林道御嶽山線との出合となります。これを直進。

林道御嶽山線

やがて巨大な電波の反射板に至ります。御岳第一反射板といい、高さ13m。平成17年9月に完成したものです。

反射板

そのすぐ先には鉄塔があり、反射板とこの付近は展望が良く、春秋は間違いなしの休憩適地でしょう。右に見切れているのは武甲山。

鉄塔前

鉄塔を過ぎてしばらくすると「杉ノ峠」に至ります。大きい2本の杉の巨木があり、その手前に小さい石仏が鎮座しています。

杉ノ峠

この石仏についてネットで過去の画像を探してみたところ、ここ10年ほどでだいぶ傷んだなと思いました。また、杉の木の前に小さい祠があるらしいのですが、私はこのとき見逃してしまいました。石仏も風化しているので、うっかりすると見逃しそうです。

杉ノ峠

この杉ノ峠から西に行くと普寛行者の出身地、落合方面です。落合には「大滝温泉遊湯館」があるので、時間が早ければそこで温泉に入り、そこからバスで三峰口駅に戻るというのも良さそうです。

杉ノ峠

強石が近くなると、林道上強石線が見えてきます。もうすぐ登山口ですが、左手はほぼ垂直な崖になっており、ロープも何もないので念のため気を抜かないようにしましょう。下山直後の痩せ尾根よりも危険です。しかし痩せ尾根とこの地点を除けば、特に危ない箇所のない道でした。

林道上強石線

強石の登山口に着きました。ここからは車道歩きになりますが、途中でバス停へのショートカットになる山道があるので案内板を見逃さないようにしましょう。

強石

強石の集落からは熊倉山が目前に大きく聳えています。標高1427mの熊倉山は秩父御嶽山に比べるとより不気味で、より集中力を使う山です。秩父御嶽山には熊倉山にはない優しさがありつつも、人間の気配のなさ・静寂さには熊倉山に通じるものも感じました。荒川を挟んで陰の熊倉山、陽の秩父御嶽山という対になっている印象を受けます。

熊倉山

140号線に出たら、右に行くとバス停があります。しかしこの日は平日で、次のバスは15:52。1時間以上あるので、三峰口駅まで歩くことにしました。道が狭く、滝沢ダムの工事関連トラックが多く通るので少し気を使います。

強石

三峰口駅に着いたのは15時頃でした。白川橋は河床から橋面まで60メートルもあり、なるほどバンジージャンプ場があるだけあって高所恐怖症ではない私でも荒川の河床を見下ろすと背筋がヒヤッとします。

白川橋

秩父御嶽山を歩いてみて、確かに大きい特徴やわかりやすい面白みのある山ではないかもしれないものの、前半の単調な長い尾根道はそこそこの強度で無心になって気持ち良く歩くことができ、駅から駅の登山としては近場の熊倉山や矢岳ほど時間もかからないため、深い静けさに満ちた奥秩父の山を気持ちの余裕を持って歩きたい日には良い山だと思いました。

2023年2月中旬に登りましたが、雪は山頂付近のみ。チェーンスパイクとトレッキングポールを携行していましたが、使わずに済みました。強石への下山路では雪や枯葉が増えてきたので反時計回りだったらチェーンスパイクは早い段階で付けていたと思います。

著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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