ハイキングコース紹介東京都の山

石山トレッキングコース(新島):山歩きに行ったらいつのまにか海にも見惚れていた白い砂漠

石山とは

新島(東京・伊豆諸島)の石山は、島南部の総称「向山(むかいやま)」と呼ばれるエリアの西側にある最高点234.8mの低山です。向山は平安時代初期の886年(仁和2年)の海底噴火で生まれたと考えられており、その時に島北部の「宮塚山」とつながり、現在のひょうたん形の新島が生まれたとされています。今から1138年前のことです。

石山展望台のモヤイ像

石山はイタリアのリパリ島と新島でしか採掘できないと言われる「コーガ石(浮石性黒雲母流紋岩)」の産地としても有名です(厳密には神津島などでも採れるようです。地質も神津とよく似たところがありました)。この記事では、大小のコーガ石がゴロゴロと転がっている白い山、石山のトレッキングコースを紹介していきます。

石山へのアクセス情報

石山トレッキングコースに向かう時の最初の目印は「親水公園」です。新島港から親水公園はおおむね2kmほど。親水公園から林道(舗装された里道)登っていくと、石山に至る道(右)・大峰展望台に至る道(左)とに分岐します。

■ 石山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)。「石山」という文字の左にある庭園路記号の道がこの記事で紹介するトレイル

その分岐路はループ状になっており「向山ハイキングコース(向山林道遊歩道コース)」と呼ばれています。その途中から入る石山トレッキングコースは直線状の1本道で、向山ハイキングコースの北側からも南側からもアクセスできます。石山トレッキングコースと向山ハイキングコースは、1日で両方とも歩けます。

石山トレッキングコースはコース入口からの往復で約1時間30分。向山ハイキングコース周回が約3時間です。山歩き・自然観察的には石山トレッキングコースのほうが面白いので、日程や時間に余裕がない場合はこちらだけ歩いてみるのも良いでしょう。

石山の登山装備について

石山トレッキングコースは標高差も大きくはなく、危険な箇所もほとんどないので一般的な低山ハイキング装備で問題ありません。トレッキングポールが必要になる箇所もありません。

しかし脆いコーガ石で足首を怪我する恐れはあるので、ローカットのシューズは避けたほうが良いでしょう。また伊豆諸島の山全般に言えることですが、猛烈な風が吹く場合があるのでウインドブレーカーやレインウェア、冬はニット帽や顔を覆うバラクラバなどは必ず携行したいところ。夏は熱中症対策も必須。

とはいえ石山トレッキングコースは、たとえば神津島の天上山や八丈島の八丈富士などに比べると、体力的にも技術的にもはるかに楽です。

なお付近にトイレや自販機はまったくありません。水は多めに携行しましょう。

石山トレッキングコースを歩いてみた

ここからは2023年12月、筆者が石山トレッキングコースを実際に歩いてみた時の現地の模様と感想をお伝えします。

まずは最初の目印「親水公園(新島親水公園レストハウス)」の入口へ。ここはトイレやカフェレストランがあります。この隣から緩やかな坂を登っていきます。

新島親水公園レストハウス前

道はやがて二股になり、左折すると「大峰展望台」方面。看板には「向山林道入口・大峰展望台」と書かれています。そちらからでも、向山をぐるっと回りこんで石山トレッキングコースにアクセスできます。今回は道なりに右へ。

大峰展望台方面との分岐

とぼとぼ登っていくと右手に石山トレッキングコースの入口が現れました。数台分の駐車スペースがあるので、レンタカーでここまで来る手もあります。

石山トレッキングコース入口

石山トレッキングコースの案内図は、日当たりが良すぎるのか白く変色してヒビ割れていました。コース総延長約890mとあります。ピストンすると2km弱のコースになりますね。直進するだけなので、途中で眺めの良さそうなピークがあれば寄り道することにします。

石山トレッキングコースの案内図

コース入口付近はシダ植物や低木が茂っています。伊豆大島の裏砂漠に至る「月と砂漠ライン」や「テキサスコース」によく似た雰囲気のトレイルです。しかし地面が白いのが大きい違いです。

石山トレッキングコースの序盤

やがて神津島の天上山を思わせる白い礫地が現れました。

石山トレッキングコース

この白っぽい石が「コーガ石」で、大きめサイズのものがゴロゴロと転がっているセクションもあります。低山だからといって慢心していると浮石で足を滑らせ、足首を打ち付けたりするので気をつけたいところです。

石山トレッキングコース上のコーガ石

高度を上げていくと、やがて西にフランスのモン・サン=ミシェルを思わせる「鳥ヶ島」や無人島である「地内島」を展望できる好スポットが現れます。新島の海はビックリするほど美しい色で、東の羽伏浦はエメラルドグリーン、西のこの間々下(ママ下)浦はコバルトブルーが支配的という印象。神津島も海はきれいですが、海に限っていえば新島はワンランク上です。

石山トレッキングコースから望む鳥ヶ島と地内島

ちなみに「ママ」とは新島の言葉で「崖」を意味するのだそうです。ママ下=石山の崖の下、ということなのでしょう。

きれいな直線状の動物の足跡がありました。たぶん野良猫かなと思いますが、自信がありません。猫だとしてもこんなところに何をしに来ていたのか謎です。

石山トレッキングコース

一部、ロープが添えられている区間もありました。石山は小さいアップダウンを含む山頂周遊コース、というイメージで、その点も神津島の天上山によく似ています。ただし規模は天上山よりずっと小さくコンパクトな感じです。あと、周遊というより横断という感じです。

石山トレッキングコース

これも素晴らしい眺めでした。平たい板のような島が式根島。その奥に見える大きい島は、神津島です。神津島の天上山から眺める伊豆諸島も絶景ですが、ここ石山からの眺めも負けてはいません。何より至近の式根島の姿が圧巻です。

石山トレッキングコースから望む式根島と神津島

ふたたび小ピークを超えます。左手(東側)にも踏み跡は少ないものの、ゴールまで歩いていけそうな道がいくつかありそうでした。そういえば、コース中にテーブルやベンチはなかったと思います。

石山トレッキングコース

遠くに人工的な場所が見えてきました。あれがこのコースのゴール、石山展望台です。

石山トレッキングコースの終点

石山展望台に着きました。新島の観光パンフレットによく登場する場所です。

石山展望台

下はあまりにも有名な新島の「モヤイ像」のひとつ。新島には男の流人である「おんじい」や、若い娘さんを意味する「もんも」、若い男性を意味する「あんき」といった初期モヤイ像のほか、観光客も参加して制作された様々なモチーフのモヤイ像が100体以上も点在しています。こちらは女性モチーフのような気がします。一体一体に特に名前が付けられているわけではないようです。

石山展望台のモヤイ像

なお初期のモヤイ像はイースター島のモアイ像に「寄せて」デザインされたのは明白だと思いますが、語源は「力をあわせる」という意味の「もやい」という土地の言葉であり、単なる「モアイ像のパロディ」ではない、ということを新島村博物館で学びました。新島では1970年代から非常にクリエイティブな地域おこしが行われていたようです。

石山展望台には向山林道の反対側からもクルマでここまで上がってこられます。展望台が目当ての方はクルマでここまで来るのでしょう。しかしその場合でも、石山トレッキングコースを往復してみない手はないと思いました。特に今回のコースでは、高度を上げるにつれて右手に見えてくる鳥ヶ島や式根島の姿が大きい魅力でした。

石山展望台への入口

石山展望台のそばにある、いちばん高いピークにも登ってみました。奥から神津島・式根島、手前に展望台。ほんの少しだけ鎖場があり、たまに強烈な西風で飛ばされそうになり、こんな写真を1枚撮るだけでも苦労しました。また、肉眼ではもっと空気が澄んでいるように見えました(この日は光線が強すぎたせいか、有害光線のせいで色あいが実際よりも少しモワッとした写真になりました。本当はもっとビビッドな色です)。

石山展望台近くのピークから望む式根島

転がっているコーガ石を記念に持ち上げて撮ってみました。比重が軽めの石です。これを加工した置物などが港の売店で販売されていました。ガラスアートの素材としても使われているようです。

石山展望台近くのコーガ石

コンパクトで満足感の高いコース

石山ハイキングコースは期待以上に楽しめました。というのも「東京都の山」のような登山ガイドに載っている山ではありませんし、本格的な山歩きの対象ではないと思いこんでいたからです。

石山トレッキングコース

しかし新島名産のコーガ石がどのような土地から採掘されるのか、具体的なイメージを持つことができましたし、白い礫とコバルトブルー・エメラルドグリーン色の海のコントラストは唯一無二といえるほどの美しさでした。隣の式根島の姿も壮観です。島の反対側の羽伏浦海岸から見る海も含めて、新島ではとにかく海の美しさに心底感動しました。

距離は短く一直線、とシンプルなコースではありますが、お散歩以上・山行未満という感じの絶妙な強度感で、体力レベルを問わず多くの人が楽しめるコースだと思います。山の風景と海の風景、どちらも一緒に味わえるのが面白い。新島に行ったら、ここを歩かない理由はないでしょう。本当に短いコースですけれども、私はもう一度歩きにいきたくて仕方ありません。

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著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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