ハイキングコース紹介埼玉県の山

大持山と小持山:雑木林と露岩と大展望を楽しめる歩きやすいコース

大持山・小持山とは

大持山(おおもちやま・1294m)と小持山(こもちやま・1273m)は埼玉県横瀬町の山。武甲山の南に連なり、妻坂峠と結べば雑木林が美しく、大展望を楽しめて、露岩とも少しだけ戯れられる個人的にも大好きな山です。両方一緒に歩く方が多いと思います。

下の写真は筆者が矢岳の稜線から撮ったもので、左のピークが武甲山。右隣の鞍部には「シラジクボ」と呼ばれる分岐(武甲山・持山寺跡・浦山へと至る)があり、右側の大きい2つのピークが左から小持山・大持山です。

伐採跡地から見た武甲山・小持山・大持山

大持山と小持山はピーク自体に特筆すべき点はあまりないのですが、この記事で歩行記を紹介する「一ノ鳥居」(武甲山登山口)を起点とする周回コースでは季節感と変化に富んだ風景を味わえます。下は大持山・小持山の中間にある「雨乞岩」からの眺め。両神山や浅間山などの眺望が素晴らしいところです。

雨乞岩からの眺め

極端なアップダウンは少なめで、歩行に大きく技術を要するような危険な箇所もなく、中程度以上の体力があればきっと充実した時間を過ごせる山だと思います。お隣の武甲山とはかなり雰囲気が違い、ところどころで東京・奥多摩の山を思わせる雰囲気があるように思います。

大持山・小持山へのアクセス情報

大持山・小持山へのアクセスは、大きく2つのパターンが考えられます。まずは武甲山の登山口でもある一ノ鳥居を基点に、武甲山経由・持山寺跡経由・妻坂峠経由のいずれかで登るパターン。

■ 大持山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)

もう1つは名郷バス停から妻坂峠・ウノタワ・鳥首峠経由のいずれかで登るパターン。ただし妻坂峠に至る林道山中線と、ウノタワに至る林道横倉線は崩壊のため通行止めになっていることが多いので、出発前の情報収集が必要です(飯能市の林道通行止め情報が役立ちます。2023年5月2日時点では林道横倉線=ウノタワに至る道が通行不能)。

名郷バス停から出発するのであれば、白岩集落経由で鳥首峠へ。そこからウノタワ・大持山・小持山と進んでピストンするか、大持山から妻坂峠へと東進し、林道山中線を経てバス停に戻る周回コース。林道山中線は、2023年4月に筆者が訪れた時は通れるようでした。最新情報をチェックしてからお出かけください。

一ノ鳥居から出発するのであれば、武甲山に登頂してから周回するも良し、妻坂峠から向かうも良し。武甲山には登らず、シラジクボ〜持山寺跡の道を使ってショートカットする周回コースも良いです(後の歩行記で紹介するのはこのコース)。

一ノ鳥居は西武秩父線・横瀬駅から約6kmあり、歩くなら70分前後。タクシーなら10〜15分で料金は2200円前後。横瀬駅では朝8時以降、電話で呼ぶと秩父ハイヤーが来てくれます(迎車料金不要)。クレジットカードは不可ですが、PayPayや各社のタクシーチケットは利用可。一ノ鳥居からは、私のau端末からだと電波は届かないのでタクシーを使うなら往路かなと思います。

また、シラジクボから秩父鉄道・浦山口駅方面に抜けて帰るルートも考えられます。

大持山・小持山登山の装備について

大持山・小持山は基本的に歩きやすい道だと思いますが、トレッキングポールは随所で活躍します(特に下り)。トレッキングポールを使うメリットとデメリットや、私が最近愛用している製品についての記事が下にありますので、ご興味がある方はこちらもお読みいただけると幸いです。

トレッキングポールを使う18のメリットと11のデメリット
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なお冬の積雪時はチェーンスパイクが必要です(降ると膝下まで積もることがあります)。

私が歩いた大持山・小持山

ここからは筆者が2023年5月初旬、一ノ鳥居〜妻坂峠〜大持山〜小持山〜シラジクボ〜持山寺跡〜一ノ鳥居と周回した時の模様をお伝えします。

一ノ鳥居〜妻坂峠

横瀬駅から一ノ鳥居(525m)まではタクシーを利用することにしました。大持山では早い時間帯であればシカに会えそうに思ったことと、帰りは横瀬駅まで歩くことにしていたからです。往復12kmの車道歩きは身体を鍛えたい時は良いのですが、この日は山自体を深く楽しみたかったのです。一ノ鳥居の狛犬(オオカミ)に挨拶してから出発です。

一ノ鳥居の狛犬

一ノ鳥居前の舗装路を登っていくと、やがて妻坂峠方面との分岐に出ます。

一ノ鳥居〜妻坂峠

ここから妻坂峠までの道は、あまり良くありません。登りはそれほどきついところは個人的にはないのですが、この道は下ってくるのがあまり好きではありません(午後は険悪な雰囲気になります)。

一ノ鳥居〜妻坂峠

いちど林道を渡ります。

一ノ鳥居〜妻坂峠

ここから先はさらに道が悪いです。しかし滑るとか、バランスを崩しそうになるほどのところはありません。

一ノ鳥居〜妻坂峠

やや日当たりの悪い山腹道を登っていきます。美しい尾根道に出るためのアプローチと考えて、ここはサッサッと先に進みます。

一ノ鳥居〜妻坂峠

何か開けてきた! と思ったら、そこが妻坂峠。左(東)は武川岳に通じており、右(西)が大持山方面です。

一ノ鳥居〜妻坂峠

妻坂峠は標高833m。地蔵峠という別名もあるように、詳細不明の石仏があります(山犬に噛み殺された人の供養のために設置されたという説あり)。

妻坂峠の地蔵

表情がわからないほどに風化していますが、右手にはトレッキングポール… いや、杖を持っているようにも見えますね。

妻坂峠の地蔵

妻坂峠〜大持山

妻坂峠から西進します。ここからは美しい尾根道です。片方の谷が杉林になっているところもありますが、広葉樹が支配的。奥武蔵とは一味違う雰囲気です。個人的には少し奥多摩を思わせるところがあります。

妻坂峠〜大持山

ところどころにアカヤシオの紅紫色の花が咲いていて、露岩も目立ちはじめます。このあたりではむかし何度かシカを見たのですが、この日は残念ながら鳴き声も聞こえませんでした。

妻坂峠〜大持山

やがて開けたところに出ます。これは「大持山の肩」と呼ばれます。

大持山の肩

ここは東に開けていて、天気が良ければ西武ドーム(ベルーナドーム)もかすかに見えます。南側にはウノタワ・鳥首峠に至る道が続いています。大きい倒木が2組あり、4人程度座れます。小休止には最適。敷物があれば日陰に座るのも良いでしょう。

大持山の肩

大持山を目指し、さらに西進します。眺望的には大持山の肩のほうが良いので、ゆっくりしていってからで良いと思います。

妻坂峠〜大持山

大持山のピーク。葉が落ちた冬はもう少し眺望が良いのですが、生命力全開の木々の姿を楽しめました。わりと広さはあるので、大人数ならここでのんびり休憩するのも良いでしょう。

大持山頂

この山頂では立派なアカヤシオの木が2本見られました。開花期は4〜5月なので、ちょうど見頃でした。

大持山頂

このコースはゴロゴロした露岩が多いですが、こう見えて歩きやすいです(膝には厳しくない…と思う)。

大持山〜小持山

小持山に向かいます。露岩に加え、木の根も目立ちはじめます。しかし奥武蔵の低山のように足を取られるほどの張り出した根はなく、やはり歩きやすい山だなと思います。あと灌木が多い。

大持山〜小持山

下の写真は「通せんぼ岩」と呼ばれているミニ名所。巻き道がないので前進するしかないのですが、苦戦するほどのところはありません。それにしてもうまいこと隙間があるものです(誰か割ってくれたのだろうか…)。

通せんぼ岩

やがて左手に、枯れた大きめの木が見えてきます。ここは絶対に外せない「雨乞岩」という展望スポットです。このコース最大の見所と言ってもよいです。

雨乞岩

猫の額のような狭い崖で、写真に見えないところも含めるとマックスキャパは6人くらいでしょうか。この立ち枯れた木が何ともいえない味わいで、絵を描きたくなります。両神山や浅間山が見えます。眼下には浦山の集落。食事休憩するならここがオススメですが、時間帯によっては先約済みだったり、日当たりがきつい時もあります。

雨乞岩

雨乞岩には右にちょっとだけ降りられるところがあります。下はすぐ垂直な崖なので足元注意ですが、岩の隣で座ることもできます(お一人様専用スペース)。

雨乞岩

雨乞岩からの絶景を堪能したら、小持山に向かいます。ここから藪っぽい雰囲気になる区間が出てきます。

大持山〜小持山

小持山に至る前に、2ヵ所ほど左手に展望スポットがあります。踏み跡を見かけたら寄ってみましょう。

大持山〜小持山

ここでは振り返ると大持山がよく見えました。絵になる風景だと思います。

大持山

小持山頂に到着。腰掛け岩だけがある小さいピークです。特に眺望はありませんが、この先から武甲山の南面(開発の進んでいない背中のほう)がたびたび見えてきます。

小持山頂

小持山〜シラジクボ

小持山を下り、シラジクボを目指します。露岩に落ちる木漏れ日が美しいですね。ちなみにロープや鎖はこのコースでは登場しません。

小持山〜シラジクボ

シラジクボに至る前に、長めの鞍部があります。

小持山〜シラジクボ

シラジクボ(1065m)が見えてきました。小さい窪みで、三峠という別名もあります。直進すると武甲山。左に行くと浦山方面(長者屋敷ノ頭に至る)。右に行くと持山寺跡・一ノ鳥居方面です。ここはベンチなどはないのですが、斜面に座って休憩することはできます。

シラジクボ

なおシラジクボから持山寺跡に行かず、武甲山に登ってから一ノ鳥居に下るコースは「大持山周回コース」と呼ばれるようです。体力と時間がある方は武甲山頂を目指すのももちろんありです(約1時間)。ここから浦山口に向かっても楽しい(一ノ鳥居から横瀬駅まで車道を歩くよりも楽しめる)。

シラジクボ〜持山寺跡

気持ちの良い尾根道の名残を惜しみつつ、持山寺跡に向かいます。ここからは杉林中心です。

シラジクボ〜持山寺跡

道はそれほど悪くありません。

シラジクボ〜持山寺跡

やがて三叉路になります。右に行くと持山寺跡。左に行くと一ノ鳥居から武甲山へと至る表参道コースに合流します。ここは右へ。

シラジクボ〜持山寺跡

この三叉路には目立つ大きい石碑があります。独特な書体で「南無阿弥陀仏」と刻まれているように見えます。石碑の下側には蓮の花の彫刻があり、西賢、の名が読めます。

持山寺跡

先の三叉路から160mほど歩くと持山寺跡に出ます。持山寺は、かつては「阿弥陀山念仏寺」と呼ばれていたそうです。ここは標高900mほどの鞍部で、寺の跡といってもちょっと開けた杉林といった感じであり、お寺の残骸などは見当たりません。

持山寺跡

しかしかなり立派な宝篋印塔があります。隣には竹林。現地の説明板を読む限り、この宝篋印塔や先に見た石碑は17世紀頃のものかもしれません。ややダークな雰囲気。

持山寺跡

シラジクボから持山寺跡までの距離はちょうど1kmほどです。

持山寺跡〜一ノ鳥居

先の三叉路に戻り、一ノ鳥居を目指して下ります。

持山寺跡〜一ノ鳥居

途上、こんな巨大な岩があり、杖になりそうな長さの枝がたくさん掛けられていました。これは「杖にしてね」という意味なのか、それとも「岩、倒れるなよ!頑張れ!」という意味なのかわかりません(多分後者ではないかと想像)。

持山寺跡〜一ノ鳥居

生川(うぶがわ)にかけられた板橋が見えてきました。これを渡ると、武甲山への登山道(十二丁目あたり)に合流します。

持山寺跡〜一ノ鳥居

このコースでいちばん体力的にきついのはこのデコボコのコンクリート路面かもしれません。これは登りよりも下りのほうがきついですね。勾配がすごい。

持山寺跡〜一ノ鳥居

一ノ鳥居に到着しました(下は反対側から撮ったもの)。一ノ鳥居は去年、立派なトイレができました。クルマも10台は停められます。四体のニホンオオカミに挨拶して下山。ここから横瀬駅までは、菱光セメントの工場群を抜ける長い車道歩きでした。

一ノ鳥居

今回久しぶりに大持山・小持山を歩いてみて、やっぱり気持ち良くて良い山だなぁと思いました。新緑の5月も良いですが、冬は冬で開放感が爆上がりするコースです。小さいピークを何度も登って下るようなところもなく、関節への負担も少ないと思います。マイカーを利用して一ノ鳥居まで来られる方なら、さらに気軽に楽しめるコースでしょう。

妻坂峠から大持山の肩までの尾根道、大持山〜小持山の稜線がとにかく良いです。武川岳〜二子山の縦走コースが好きな方や、奥多摩の雑木林っぽい雰囲気が好きな方なら気に入ると思います。

著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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