ハイキングコース紹介埼玉県の山

武甲山(ぶこうさん):秩父を象徴する異形の名山

武甲山ってどんな山?

埼玉県秩父市と横瀬町の境界にそびえる武甲山(ぶこうさん)は、標高1304m。石灰石の採掘によって削られたピラミッドを思わせる山肌が強烈な印象を与え、見た人は思わず「うぉ〜カッコイイ」や「ス、スゲッ!!」と感嘆してしまう、カリスマ的人気を誇る山です。秩父や奥武蔵の多くの山頂から容易に同定が可能な、日本二百名山の一つ。

武甲山(2021年11月 丸山から撮影)

武甲山(2021年11月 丸山から撮影)

武甲山の山容は、自然破壊という視点から否定的に語られることも少なくありません。しかし舗装道路をはじめとする社会インフラは、この山が提供する石灰石のような自然資源に大きく依存しています。ネットでは「日に日に削られ、年々小さくなっていく武甲山はかわいそうだ」という意見をよく目にするのですが、人と自然との関わりをあらためて考える機会を与えてくれるという意味で、教育的な山でもあると私は思います。

主な登山コースとアクセス情報

生川(うぶがわ)沿いの一ノ鳥居登山口(525m)をスタートし、秩父鉄道・浦山口駅にゴールするコース(表参道〜橋立コース)が代表的(標高差779m)。歩行距離は約10km、歩行時間は5時間30分が目安。山頂から小持山・大持山と縦走し、妻坂峠を経て一ノ鳥居へと戻る周回コース(約10km)のほか、伊豆ヶ岳武川岳から縦走してくるコースも人気が高いです。

■ 武甲山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)

一ノ鳥居登山口までは西武秩父線・横瀬駅からタクシーで約15分、料金は2300円前後。横瀬駅から徒歩でも良いですが、登山口までは6kmもの退屈な舗装路で、70〜80分ほどかかってしまいます。横瀬駅のすぐ近くにタクシー乗り場があるほか、西武秩父駅からの乗車・迎車でも時間・料金は大きく違いません。一ノ鳥居登山口には駐車場があるため、周回コースならマイカー利用も可。

一ノ鳥居(2022年2月撮影)トイレの新築作業が行われていた

なお一ノ鳥居登山口の近くでも、携帯の電波はほぼ届きません。タクシーにはクレジットカード端末があっても通信できないことがあるので、当然ですが現金を用意しておきましょう(PayPayは使えることもあります)。また横瀬駅〜一ノ鳥居までの道は石灰運搬トラックの往来が多いため、歩く場合はやや注意。

(2023年3月追記)2022年2月にはまだ工事中だった新しいトイレは、その後まもなく完成しました。とても立派できれいなトイレです。

武甲山・一ノ鳥居登山口の新しいトイレ

工事中の一ノ鳥居のトイレ

武甲山・一ノ鳥居登山口の新しいトイレ

完成した新しいトイレ。シューズなどを洗える蛇口も外にあります

武甲山・一ノ鳥居登山口の新しいトイレ

広くて清潔なバリアフリートイレもあります

私が歩いた武甲山

武甲山は何度となく歩いています。初回は一ノ鳥居スタート・浦山口ゴールのコースで、その時の正直な印象は「ズドンと登らせてズドンと下らせるだけの、なんともわかりやすい山だな」というものでした。一ノ鳥居からの登りは、急登という感じでもないのですが、そこそこの勾配が同じような強度でずっと続き、それが外から見た武甲山のシェイプにリンクしているかのような印象があります。外から見た時の印象と、中を歩いている時の印象が妙に近い。山頂まで、雰囲気も植生も大きく変化しません。

武甲山・一ノ鳥居からの登山道

一ノ鳥居からの登山道

しかし単調ながら退屈な道でもなく、山頂近くではシカの群れを見かけることもあり、植林中心とはいえ謎めいた深みのある山だと思います。特に長者屋敷ノ頭の尾根道には不思議な静けさがあり、橋立側の沢沿いの道も人の気配というか、匂いのようなものが少なく、人里からの隔絶感が漂っています。

武甲山頂近くで見かけたシカの群れ

武甲山頂近くで見かけたシカの群れ

市街地もごく近く、遠くからたまに石灰岩の発破作業の音も聞こえてくるし、よく整備された人気の山なのに、ところどころで「ここは人の領域ではないのかもしれない」と感じる瞬間が多く、その雰囲気をまた味わいたくなってよく足が向きます。

武甲山頂

武甲山頂

山頂からシラジクボ〜小持山〜大持山〜妻坂峠、と周回するコースは橋立コースよりも眺望を楽しめます。シラジクボから先の尾根道は開放感と変化に富んでおり、一ノ鳥居から武甲山頂までが「陰」だとするなら、こちらは「陽」という感じで、妻坂峠から一ノ鳥居は下るときついところもありますが、心地良いハイキングになります。武甲山頂〜大持山間はわかりやすい楽しさで、ここを何度も往復したいと思うほど。この尾根道はセットで味わいたい感じはします。

大持山手前の雨乞岩からの眺め

大持山手前の雨乞岩からの眺め

武甲山は、登山道が整備されている、とは言っても、登山客・観光客に対して過剰に親切な雰囲気があるわけでもなく、先にも書いたように、自分がそこでの存在を微妙に拒否されているかのような「異界感」がメジャーな山のわりに結構残っているように感じます。それがあるので、また行きたくなります。

寺坂棚田(横瀬町)から望む武甲山

寺坂棚田(横瀬町)から望む武甲山

著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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