熊倉山とは
埼玉県秩父市にある熊倉山(くまくらやま)は標高1427m。運動強度はそれなりに高いのに、大展望を楽しめるわけでもない。熊の目撃動画がYouTubeにアップされていたり、遭難・行方不明報告も少なくないのでちょっと怖い。どこかダークなところのある山です。そして、それこそが熊倉山の魅力ではないかと私は感じています。
秩父鉄道沿いの駅からバスさえ使わず日帰りでそのまま登っていける低山でありながら、派手さはないものの奥秩父の深い自然と静寂がじわじわと身体を包みこんでくる、不思議な山です。
ハイキング・登山をはじめたばかりという方には、おすすめできません。目安としては、秩父なら武甲山、奥多摩なら鷹ノ巣山を余裕を持って歩ける人向けかと思います。
熊倉山へのアクセス情報
最寄りは秩父鉄道・白久(しろく)または武州日野駅。白久からスタートすれば尾根道の「城山コース」。武州日野からスタートすれば沢道の「日野コース」。かつては他に白久林道コースなども利用できたのですが、現在は崩落のため通行が禁じられています(2023年2月現在)。
■ 熊倉山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)
この記事では筆者が白久駅スタート、武州日野駅ゴールしたある冬の日の山歩きをご紹介します。距離12.5km、行動時間は7時間強(軽い休憩・写真撮影時間を含む。大休止なし)。そのうち2時間は林道歩きです。
私が歩いた熊倉山
2023年1月下旬のこの日、白久駅には8:13に到着。気温は失念しましたが-7度以下であったのは間違いなく、駅を出ると手が冷たく吐く息は真っ白。白久駅は標高303mなので、熊倉山頂までは1124mの標高差。この時間の山頂は-10度以下にはなっているでしょう。城山コースの登山口まで車道を70分歩き、身体を暖めます。出発する前に、自販機で買った温かいお茶も流しこみました。
沢沿いの車道を駅から直進。旅館「谷津川館」を右手に見ながらさらに直進すると、やがて白久(林道)コース入口の看板が見えてきます。このコースは崩落のため現在は通行止めです。
城山コースの入口に着きました。私は鹿を驚かさないよう熊鈴を鳴らさないこともあるのですが(写真を撮りたいから)、過去1〜2年でも熊の目撃報告が多い山なので西武鉄道オリジナル熊鈴を取り出してザックに付けます。
急峻な山腹をトラバースする下の写真のような道は熊倉山の大きい特徴だと思います。この勾配です。写真で見るとそれほど危なくは見えないかもしれないのですが、ザレているのでバランスを崩すと谷側に滑り落ちそうになります。登山口であらためてザックのスタビライザーを確認・調整したほうが良いでしょう。
気を抜いていると踏跡を見失うことが多い山です。特に秋冬は気が付くと落ち葉や雪で登山道から離れてしまうことがあります。熊倉山で行方不明になったという方々は、恐らく先のような山腹道からの滑落が原因だろうとは思いますが、霧が出ていたら道迷いしやすい箇所も多くあります。
少しバテてきたので小休止。前半はひたすら上りで奥多摩三大急登を思わせるものがありますが、谷側が険しい箇所が多いので、より集中力を要する印象があります。足腰を鍛えるには非常に良い山です。
小幡(おばた)尾根と呼ばれる尾根道に出ると、少しだけ一息つけます。このあたりからゴロゴロとした岩が増えてきます。
根と露岩が絡みあった痩せ尾根も登場します。しかし足が引っかかりそうな根っこはあまり多くはありません。極端なアップダウンの連続はなく、ペースはある程度維持できます。
前半にクサリ場はないのですがロープが何箇所か登場します。集中して歩けば特に危険はない道ですが、落ちたら確実にアウトではあります。
伊豆ヶ岳などが好きな方ならたまらない大きい根の張った道です。岩場もそこそこあり、変化があって飽きません。ちなみにここに来るまでに既にNaturehikeのカーボントレッキングポールを出して使っていました。
尾根道はこんな斜度になることも。下ってくるとかなりキツいです。
山頂から1km程度に近付くと、両神山方面への展望が得られる箇所がいくつか現れます。基本的に大展望を楽しめる山ではないので、この程度に開けた場所でも積極的に休憩して遠くの山々を眺めるのが良いと思います。
日野コースとの分岐点まで来ました。ここまで来れば山頂はすぐそこです。
11:43に熊倉山頂に到着。この錆びた熊倉山の鉄板は、「埼玉県の山」(打田鍈一著)によれば「50年以上前から不変」とのことです。ということは、1970年頃からはここにあるわけです。こういう古い看板がそのまま残っているのを見ると感動します。是非このままあと50年はもってほしいと思います。
鉄板の手前は岩場になっています。やはり伊豆ヶ岳を少し思い出します。武川岳手前の天狗岩などが好きな方もこの山の雰囲気は気に入ると思います。しかし愛用しているカメラOLYMPUS E-M5 mark IIIのシャッターがフリーズするほどの寒さだったので、座ってゆっくり食事休憩を取るのはやめました。
山頂には小さい祠もありました。詳細不明。
日野コース分岐まで戻り、今度は沢道に向かって下山していきます。
こちらもやはり急峻な斜面を渡る道で、バランスを崩さないよう集中します。ただ、軽アイゼンは持っていましたがギリギリ使わずに済みました。この後はロープとクサリが何箇所か登場します。
「埼玉県の山」によると、この城山コース〜日野コースという回り方は寺沢の源頭に迷い込む恐れがあるため、あまり推奨していないようです。寺沢の源頭近くはほぼ氷結していました。
このあたりも踏跡を見失うことがあります。ただ、注意して見るとピンクのテープを発見できるのでなんとか迷わずに済むと思います。
日野コースは奇岩・巨岩もよく見られ、下の写真の岩などは高さ3mほどあると思うのですが、どこからか落ちてきて両側の岩に挟まれて、浮いています。もう何百年もこうした姿なのでしょう。
水の音が聞こえてきました。これがやがて寺沢川になるのですが、このあたりでもテープがないと道がよくわからなくなるところがあります。また、下流に行くほど何箇所か石を飛ばないと渡れないところもあります。凍結時は慎重に。
林道三又線が近くなると、奇岩ならぬ奇氷の姿が目立ってきました。ここでは写真をたくさん撮ったので、冬の熊倉山・寺沢川上流で出会ったキモかわいい奇氷たちという記事で紹介しています。ついでにお読みいただけると幸いです。
無事に日野コース入口までたどり着きました。ここからは林道熊倉線経由で、武州日野駅まで50分歩きます。
広々とした屋根で風格のある武州日野駅にゴールしたのは15:22。白久駅を出発したのが8:13だったので、行動時間は7時間9分。「埼玉県の山」による標準コースタイムが7時間10分なので、ほぼ同じ所要時間でした。
熊倉山はものすごく技術が必要な山ではないのかもしれませんが、やはり急峻なトラバースが多かったりするので、集中して重心バランスを取る必要があります。それに加えて季節によっては道も見失いがちなので、「埼玉県の山」では技術度が5段階のうちの3になっている理由も十分に納得できます。実際、行方不明になっている方も少なくないようです。
そうしたダークな側面はありながらも、駅から駅で歩けるところもあり、少し野性味のある深い山に行きたい、という時は足が向く山です。行動時間は7時間ですが、そのうち2時間は林道歩きなので、登山道自体は5時間。そう考えると、適度な緊張感を保っていけば充実した山歩きが楽しめると思います。