ハイキングコース紹介東京都の山

八丈富士:期待を大きく超える光景と歩きごたえ ガイドブックよりも深く長く歩いた最高の一日

八丈富士とは

東京都心から287km南方に位置する八丈島には有名な山が2つあります。ひとつは島の南東部にある標高701mの三原山(別名・東山)。もうひとつはこの記事で詳しく紹介する、東京諸島の最高峰・標高854.3mの八丈富士(西山)です。

八丈富士

八丈富士は三原山よりも火山としては比較的新しいため(活動開始は1万年前で、最後の噴火が1605〜1606年とされている)、有史以降は噴火していない三原山のほうが森は深いのですが、甦りつつある植生と荒々しい噴火の痕跡、そして山頂からの絶景を堪能できる素晴らしい山です。

八丈富士

この記事では2023年4月末、筆者がはじめて八丈富士を歩いてみた時の模様とともに各種情報をご紹介します。期待していた以上の体験を得られ、ガイドブックで紹介されているよりも手強くて深みのある山だ、という感想を持ちました。超の付くおすすめのハイキングコースです。

八丈富士へのアクセス情報

そもそも八丈島にはどう行く?

まず八丈島そのものへのアクセスですが、東海汽船による大型客船(※ジェット船は就航していない)のほか、ANAによる飛行機を使う方法があります。船では10時間20分かかりますが、往路は東京・竹芝桟橋から22:30の出港で、八丈島には朝9:00頃に到着するので船では寝ていられます。飛行機なら55分ですが、最も早い便で羽田発が9:00、八丈島空港着が9:55となります。

■ 八丈島周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)

往路は大型客船のほうが料金も安く個人的にはおすすめです。現地で一泊し、復路は翌朝9:40頃の船で帰るもよし(一日一便のみ)、もう少しのんびりして八丈島空港を16:40頃に出発する飛行機で帰るもよし。翌日に三原山にも登りたい方は、飛行機が良い選択肢になるでしょう(または現地でもう一泊して翌朝の船で帰る)。

■ 底土港(そこどこう)に到着した「橘丸」(たちばなまる・中央)。右は青ヶ島に行く「あおがしま丸」

東海汽船の橘丸(八丈島・底土港にて)

筆者は現地で一泊(底土野営場にキャンプ泊)して翌朝の船で帰ってきましたが、最低2泊、可能なら3泊していきたい島でした。

八丈富士への登山ルート

八丈富士へのアクセス情報です。登山口までの主なルートは2つあり、ひとつは八丈島空港から直登する道。もうひとつは八丈島空港道路と底土港の中間地点から伸びる「八丈富士ハイキングコース」です。空港から直登する道は、分県登山ガイド「東京都の山」によると往路60分・復路45分。「八丈富士ハイキングコース」はほぼ近い距離ながらタクシーを利用できます。

登山口から「火口壁の縁(お鉢めぐりコースのスタート地点)」までは1280段の階段を登り、現地情報によればゆっくり歩いて60分。分県登山ガイドでは30分とされていますが、筆者が歩いてみた感じだと、分県登山ガイドに記されているコースタイムは全体的にもっと長くなる場合があるという印象を受けました。

さらに山頂でのお鉢めぐりは1周50〜60分。寄っていきたい浅間神社は往復20分、中央火口丘は往復40分(いずれも現地道標による)。タクシーを使わない場合、5時間はかかる計算になります。時間を多めに取って、風景を楽しみながらのんびり歩けるよう計画したほうが良いと思います(そのほうがきっと楽しめる)。

余裕を持った数字は、大体以下のような感じだと思います。

  • 麓から登山口まで:約1時間
  • 登山口から火口壁の縁までの1280段の階段:約1時間
  • お鉢めぐり:約1時間(状況によってもっと長くなりうる)
  • 中央火口丘と浅間神社:プラス約1時間(状況によってもっと長くなりうる)
  • 登山口までの階段下り:約40分
  • 登山口から麓まで:1時間弱

筆者が歩いた日は、大型客船「橘丸」が運悪く時化の関係で到着が10時すぎ。夕方に底土野営場でテントを張る必要もあったので、登山口まではタクシーを利用することにしました。料金は2000円くらい、時間は約15分です。登山口まで歩いている人も見かけました。路面は基本的に舗装ですが、一部未舗装区間あり。登山口には計10台程度の駐車場あり。全コース歩行は健脚向け。

なお登山口にはトイレがありません。約800m下ったところにある「ふれあい牧場」にトイレと飲料の自販機があるので、タクシーの場合、必要ならそこで降ろしてもらったほうが良いと思います。牧場は、楽しめましたが個人的には10〜20分の滞在で満足かなという感じでした。

出発前に、八丈富士山頂ハイキングマップをダウンロードして眺めておきましょう。別の種類のハイキングマップも、底土港ターミナルや現地の観光協会で手に入ります。1/25000地形図は「八丈島」です。

八丈富士の登山装備について

八丈富士登山では、装備面で特に注意すべき点がいくつかあるように思いました。

  • 稜線は日陰がないため熱中症対策は念入りに(ハット・水分を忘れないように。日除け傘は無風でない限り危険)
  • 稜線は風が吹くと冷えるので、ウィンドブレーカーまたはレインウェアは必携。また風で滑落しないよう注意
  • 肌は露出させない。後述の歩行記で詳しく触れますが、お鉢めぐりコースでは常緑小高木のイヌツゲの枝が身体に刺さります。虫も少なくはありませんが、特に草本対策として
  • 濡れている時は滑りやすい箇所が多くあり、グリップ性の高いシューズを推奨。中央火口丘にも入るのであれば、防水性のあるシューズが好ましい
  • ザックはできれば小型のものが良い(そうでないと山頂ではイヌツゲに、中央火口丘では藪にひっかかりやすい)

八丈富士山頂のイヌツゲ

トレッキングポールは、使えるところもありますが脚を痛めていない限り基本的に不要と思いました。使っている方は見ました。ただしお鉢めぐりコースでは、稜線上に亀裂や穴が多数あるので足元には慎重に。

分県登山ガイドでは技術度が「2(ピッケル2個)」になっていますが、中央火口丘も含めるなら「3」の心構えで歩いたほうが良いと思います。体力度もハートマーク1ですが、これは1じゃないな、と思いました。2はあります(私感です)。

私が歩いた八丈富士

ここからは筆者が2023年4月末、実際に八丈富士を歩いた日の歩行記となります。

八丈富士登山口〜火口壁の縁

まずは電話で呼んだタクシーで八丈富士登山口まで運んでもらいました。富士登山道から鉢巻道路に出て、右に300m登ったところに駐車場のある登山口があります。トイレや自販機のある「ふれあい牧場」は鉢巻道路分岐から500mほど下ったところにあるので、用のある方は牧場で降ろしてもらい、軽く見学してから登山口まで登ってきたほうが良いと思います。

八丈富士登山口

駐車場の奥が登山口になります(標高537mで7合目にあたる)。左の道標には「お鉢めぐり分岐点50分」とありました。分県登山ガイドではこの区間が30分となっているのですが、もう少し見たほうが良いのは間違いないです。30分・50分・60分と、様々な数字があります。

八丈富士登山口

急登とまでは行かないものの、ここからは長い淡々とした階段登りが続きます。ちなみにこの階段の手前にも軽自動車3〜4台分ほどの駐車スペースがあるので、レンタカーで来られて下の駐車場が埋まっていた場合はチェックしてみてください。

八丈富士・1280段の階段

岩とコンクリートのこの石段は1280段もあります。ステップが大きいので、私は右端のようなコンクリートの肩を歩いたほうが楽でした(ストックを使うなら石段のほうが良いのかもしれない)。

八丈富士・1280段の階段

東京諸島の名産といえばアシタバ(明日葉)ですが、八丈島は特に野生のアシタバを大量に見かけました。おいしそう(夕方に「魚八亭」というお店でアシタバの天ぷらを食べた。さらに地元の方からそのへんに生えていたアシタバをいただき、帰宅してからも食べた。おいしかった。なお下の写真くらいまで葉が大きくなっているものは食用不適とのこと。食べるのは若い芽)。

八丈富士・1280段の階段

「石段中間点・640段」の道標が見えた時、えっまだ半分もあるの!? と正直思いました。わりときつい。

八丈富士・1280段の階段

石段中間点を過ぎたあたりで振り返ると、南に三原山が見えてきました! 三原山、というと伊豆大島の三原山を思い出しますが、山の雰囲気・地質としてはこの八丈富士のほうが三原山に近いと思われます。

八丈富士・1280段の階段

登ってきた石段をあらためて振り返ります。ステップがなだらかになってきたら頂上はもうすぐです。それにしても、もうこの時点で風景が抜群に良いです。

八丈富士・1280段の階段

お鉢めぐりのスタート地点である「火口壁の縁」が見えました! この日、お鉢で見かけたのは合計5人くらいだったように思います(帰路では合計10人くらいが階段を登ってきていました)。

火口壁の縁

火口壁の縁からはさっそく火口内部を見渡すことができます。火口内部は複雑な形状をしていて、見る角度によって風景がかなり変わっていきます。ちなみに超広角レンズ(18mm相当)を持っていきましたが、それでも入りきらないくらいの広大な火口です。

火口壁の縁

これから左(南側)の稜線伝いにお鉢めぐりをすることになります。写真に見えている方々は浅間神社方面に下っていくところと思われますが、私は帰路に寄っていきます。とりあえず直進。なおお鉢めぐりは「時計回り」の一方通行と決められています。実際に歩いてみると対面通行が難しい箇所があるので、これは守りたいところ(ほぼすれ違えない区間があります)。

火口壁の縁

帰りはこの方面(北側)から「火口壁の縁」に戻ってくることになります。

火口壁の縁

お鉢めぐり

それではお鉢めぐりに参ります。道標には「50分」とありますが、これから見ていくように慎重に歩かなければならない箇所もあること、絶景を楽しみながら歩くことも考えると、やはり1時間程度見ておいたほうが良いと思います。山頂までは15分とあります。

八丈富士・お鉢めぐりコース

序盤は生い茂った草中心の藪といった感じです。このくらいなら楽勝かな、と思いました。最初は。

八丈富士・お鉢めぐりコース

基本的には痩せ尾根という感じで、序盤なら歩きやすい道もあります。コース全体を通じて、急登や急下降はありません。よじ登るような岩もなし。

八丈富士・お鉢めぐりコース

火口内部を眺めます。最後の噴火は400年前。伊豆大島の三原山も、今後噴火が発生しなければ400年後にはこういう姿になるのだろうか、と想像しながら眺めました。

八丈富士・お鉢めぐりコース

稜線からはやがて八丈島の三原山が見えてきました。八丈島はひょうたんのような形になっており、市街地は三原山と八丈富士のあいだの巨大な谷のような感じです。

八丈富士・お鉢めぐりコース

しかし絶景に見とれてばかりいられないのがこのお鉢めぐりコース。足元注意、という看板の先には、うっかりすると落ちてしまいそうな大きい亀裂がありました。これほどの大きさではないものの、他にも穴がいくつかありました。草の生い茂る夏場は特に用心が必要でしょう。上ばかり見ていると危ない。

八丈富士・お鉢めぐりコース

杭が立っているピークが見えてきました。あれが八丈富士の山頂です。

八丈富士・お鉢めぐりコース

来た道を振り返ります。このあたりまで、踏跡は比較的明瞭でした。

八丈富士・お鉢めぐりコース

八丈富士の山頂に到着。あまり広くないピークで、4〜5人程度が座れる広さ。日当たりが強いのでお昼休憩には向かない時もあるかもしれませんが、小休止はしたいところ。

八丈富士・お鉢めぐりコース

八丈富士山頂は南東に面しており、三原山と三根・大賀郷地区の見晴らしが素晴らしい。中央右下に見えているのは「ふれあい牧場」で数十頭の牛が放牧されています。控えめに言って絶景です。

八丈富士・お鉢めぐりコース

山頂を後にし、先に進みます。このあたりからハチジョウイヌツゲが登山道を覆いはじめ、「えっ?」と驚きました。

八丈富士・お鉢めぐりコース

このイヌツゲは腰の高さまである区間もあり、枝がウェアやザックに容赦なく刺さることがあります。幸いこの付近の路面に穴や亀裂はほぼなかったように思いますが、踏跡は急激に不明瞭になり、これは本当に道なのだろうか、と思える箇所もありました。しかし写真でわかるように、なんとなくコースが見えますね。夏になるともっとわからなくなるのでは、と思いました。

八丈富士・お鉢めぐりコース

イヌツゲの群生が一段落すると、左手に八丈小島(616.8m)が見えてきます。八丈小島は1969年に住民全員が八丈本島に移住して以来、無人島です。鳥獣保護区になっており、たまに釣り人やガイトツアーの人が訪れる程度だそうです。八丈小島の歴史は、調べてみるとかなり面白いです(Wikipedia)。北野武の映画「バトル・ロワイアル」のロケ地でもあります。

八丈富士・お鉢めぐりコース

来た道を振り返ったところ。逆回りはできないので、こまめに振り返って風景を楽しみたいところです。

八丈富士・お鉢めぐりコース

ふたたび八丈小島。右下の白波が立っているあたりに、本当に小さくですが大越鼻灯台が見えます(地理院地図には「大越ヶ鼻」とある)。望遠レンズがないと写せないサイズ。八丈島の北半分は、伊豆大島で言うと島の西側(裏砂漠のあるほう)のように、人があまり住んでいない地域という印象を受けます(八丈一周道路は通っている)。

八丈富士・お鉢めぐりコース

火口を東側から眺めたところです。中央にこういう巨大な丘があって、その両側にも大小の丘や穴があるという感じの複雑な地形でした。これを書きながらも、未だに全体像がよくつかめません。

八丈富士・お鉢めぐりコース

また振り返ってみます。秩父の二子山のような危うさはないのですが、滑落事故もたまにはあるようです。普通の注意力を保てていれば特に危険はないと思いますが、突風が吹く時は気をつけたほうが良いでしょう(落ちたら終わりなところはたくさんあります)。雨風をしのげる場所も一切ありません。

八丈富士・お鉢めぐりコース

さらに進むと、赤茶けた崖が見えてきました。伊豆大島の三原山で言うところの「赤ダレ」のような地質です。噴火時に高温で酸化した溶岩の痕跡ですね。

八丈富士・お鉢めぐりコース

八丈富士版「赤ダレ」の近くでは、下に降りられそうな道を見かけました。しかしよくよく見ると道は繋がっておらず、降りるのは難しそう。なんとなく人が歩いた形跡はあるように思えたのですが、学術調査関係者のものでしょうか。危険です。なお写真下の手前の矢じりのような玄武岩は存在感がありました。伊豆大島・三原山の「ゴジラ岩」に匹敵します(特に愛称はないらしい)。

八丈富士・お鉢めぐりコース

赤ダレの先はまたイヌツゲが群生する道になりました。ただ、山頂直後ほどの規模ではないです。

八丈富士・お鉢めぐりコース

来た道を振り返ります。先の「赤ダレ」が見えています。

八丈富士・お鉢めぐりコース

南にふたたび三原山が見えてきました。ここにも「足元注意」の杭があり、穴があいていました。

八丈富士・お鉢めぐりコース

北側から眺める火口は、ブロッコリーのサラダかミニチュアの盆栽のようです。こんもりしていて可愛い。マヨネーズかけて食ったら美味そうだな、とかバカなことを考えました。しかしこれだけおもしろい火山なのに、ジオパークに認定されていないところは不思議です。

八丈富士・お鉢めぐりコース

火口壁の縁はまだまだ先かな、と思っていたら唐突に戻っていました。はじめてだったせいもあるかもしれませんが、いまどこを歩いているのかわからなくなることが多かったです(途中で、逆回りしてきたと思われる女性にも「出口はどこですか」と聞かれました)。

八丈富士・お鉢めぐりコース

このお鉢めぐりはコースタイム通りに歩くのがもったいないです。というより、草やイヌツゲの最盛期にはコースタイム通りに歩けない可能性のほうが高い気がしました。風景に驚いていると自然に時間が過ぎていくせいもあります。ここはのんびり・たっぷり歩いたほうが良いです。

火口壁の縁〜中央火口丘

お鉢めぐりを終えたところで、オプションコースとして考えられる「中央火口丘」と「浅間神社」に向かってみます。まずは中央火口丘へ。この細い道を下っていきます。

火口壁の縁〜中央火口丘

急な段差はあまりないのですが、道は悪いです。

火口壁の縁〜中央火口丘

やがて道標のある三叉路に出ます。右に行くと浅間神社、左に行くと中央火口丘です。石柱には浅間神社まで10分、中央火口丘まで20分、と記されています。両方とも行って帰ってくると追加60分ということになります。分県登山ガイドでは中央火口丘は数分、とあったのを覚えていたので、えっそんなにあるの、と当惑。でも行きます。

火口壁の縁〜中央火口丘

中央火口丘に至る道は、この数日前に雨だったせいもあるのか水たまりが多く、シューズを濡らさずに歩くのが難しかったです。先人による巻道もうっすらとあるのですが、進路に低木の枝が伸びていて何度も派手に頭をぶつけました。この道は分県登山ガイドの表示にならえば、技術度3でしょう。

火口壁の縁〜中央火口丘

ちょっとだけ眺望の良いエリアもありましたが、木々が生い茂っているせいなのか、何がなんだかよくわかりません。ジブリの世界に出てくる森のようです。

火口壁の縁〜中央火口丘

ピンクテープがたまにあります。下の写真では踏跡がはっきりわかるのですが、どこを歩いたら良いのかわからない箇所も多数ありました。帰りのことも考えて慎重に進んでいきます。道がまったくなくなった、と思ったらたぶん迷っている可能性が高いです(何度か迷いました)。

火口壁の縁〜中央火口丘

やがて「中央火口丘」と記された石柱が現れました。しかし特に眺望はありません。この一帯が中央火口丘であること自体は間違いなさそうです。火口側に伸びているわずかな踏跡を辿ってみましたが、藪に覆われて何も見えませんでした(季節によって変わるのかもしれません)。

火口壁の縁〜中央火口丘

とりあえず先に進んでみます。この道はどこまで続いているのだろうか… 踏跡はあるものの、シダ植物とコケが密生する小さい樹海という雰囲気です。道迷い注意の看板をこれまで2回見ましたが、これは迷う人はきっと出るでしょう。浅間神社との分岐点は西にあるので、確認のためにコンパスを持っておいたほうが良いです。

火口壁の縁〜中央火口丘

ミニ・ジャングルを抜けると、開けた台地になりました。ここもイヌツゲで覆われていて、踏跡も確認できましたが複数あるように見え、どれをたどるのが正解なのかさっぱりわかりません。とりあえずあの小さいピークの方向に向かって歩くことにしました。

火口壁の縁〜中央火口丘

こんな道、歩けるか! 俺は迷ったのではないだろうか… と不安になりながらもザクザクとイヌツゲの中を縫って行くと、大きめの水たまりに出ました。お鉢めぐりの時にも大きい池が見えていたのですが、これでしょうか(ちょっと自信がない。サイズ的に、あの池はもう少し大きかったように思える。この向こうにもあるのだろうか)。

火口壁の縁〜中央火口丘

とはいえこの池、美しかったですね。じっくり写真を撮っていきました。中ではオタマジャクシがたくさん泳いでいました。水辺はコケ類が群生していて、気をつけないと足がずぶ濡れになる湿地です。

火口壁の縁〜中央火口丘

この池の先まで少し行きましたが、もう踏み跡は見当たらず、どこまで行けるのか・行っていいものかがわからなかったので引き返すことにしました(20分以上とっくにすぎています)。ピンクテープがなかったら帰路がわからなくなりそうなところでした。

火口壁の縁〜中央火口丘

小さい水たまりを他にもいくつか見かけました。これも雨の直後はもっと大きい水たまりになるのでしょう。八丈富士は水はけの良い玄武岩で構成されており、湧き水や川はないとされています。年間の降水量が多いのでこれらの池が保てるのでしょうか(伊豆大島の「幻の池」はすぐに乾いてしまう)。

火口壁の縁〜中央火口丘

この中央火口丘コース、歩いてみて良かったとは思いましたが、次回はもっと時間をかけて探索したいとも思いました。藪こぎはあるし、枝は頭にぶつけるし、シューズは濡れるし、道も良くわからなかったりでちょっと上級者向けという印象です。虫は虫除けネットが必要なほどはいなかったのが幸いでした。

浅間神社

中央火口丘の樹林からなんとか生還し(用心していたものの何度か道を見失った)、浅間神社との分岐まで戻ってきました。神社方面に直進すると、さすがにちょっとだけ道は良いです。いや、決して良くはないのですが、浅間神社に行く人のほうが多いので少しだけ整備されているのでしょう。

浅間神社(八丈富士)

たまに大きい岩があります。登降というほどではないですが、苔が生えているので少し気をつけたほうがいいかも(この日は特に滑りやすくはなかったです)。

浅間神社(八丈富士)

古びた鳥居が見えてきました。昭和四拾五年八月吉日、と刻まれています。1970年の建立ですから、52年ほどここにあるわけです。半世紀。

浅間神社(八丈富士)

鳥居の背後に回ると、正面からとは違いかなり朽ちていました。

浅間神社(八丈富士)

鳥居の下には、願い事がペイントされた大量のまるい石がありました。八丈島ではむかし子供が元服すると、感謝をこめてこの浅間神社に玉石を奉納する習わしがあったとのことで、それが現代まで続いているのでしょう。

浅間神社(八丈富士)

浅間神社の隣の藪を登っていくと、崖になっています。

浅間神社(八丈富士)

これは「小穴」と呼ばれており、直径約80m、深さ約60mあるそうです。雰囲気的には横瀬二子山の「展望岩」からの風景を想起させるものでした。スケール感が大きい(これで小穴か)。

浅間神社(八丈富士)

あとは火口壁の縁まで戻り、1280階段を下って下山です。登りもきつかったのですが、下りは下りできつい。勾配がほぼ一定なのが救いでした。ちなみに下の写真ではスカートをはいているように見えますが、ソフトシェルジャケットを腰に巻いていただけです。

八丈富士山道

八丈富士は本当に行ってよかった

今回はじめて八丈島を訪れ、歩くことができた八丈富士。控えめに言って最高のハイキングになりました。自分の休日と天候、ゴールデンウィークの混雑を考えると「いま行くしかない」というタイミングで出発。船は時化のせいで到着が確約されない「条件付き出港」だったのですが、1時間遅れでなんとか接岸。これまでも条件が整わず、八丈島は私にとって夢の島だったのです。

計画的には、あわよくば1日で八丈富士と三原山のダブル登山はできないかとも考えていたのですが、もう全然無理。1日で八丈富士をじっくり、深く歩いてみることに集中しました。結果的にそれで正解だったと思います。つめこまないほうが絶対に良いと思いました。

分県登山ガイドや各種情報を下調べしていた時、わりと短時間で歩き終えてしまう楽勝の山だろう、と思いこんでいたのですが、イヌツゲは歩きにくいし、火口の美しさに見とれている時間は長いし、中央火口丘も難路だし、と期待・予想を超える濃密な山歩き。季節によってもだいぶ印象は違うのかもしれません。真夏は厳しそう。冬にまた来たいと思いました。

下山後は底土野営場でテント泊。その後、三根地区にある「魚八亭」という居酒屋さんにふらっとご飯を食べてみたら、これがうまいのなんの(魚のレベルが高すぎる)。最高の1日となりました。

私が思うに、伊豆大島の三原山や、あと突飛な連想かもしれませんが埼玉の武川岳・二子山縦走コースが好きだ、という方はきっと気に入る山だと思います(眺望の大きさだけちょっと似ている)。

八丈島の気候は、私がよく訪れる伊豆大島に比べると湿度が高めだと思いました。体温調整がしやすいよう、ウェアのレイヤリングは普段以上に気を使ったほうが良いと思いました。

本記事が八丈富士を歩いてみたい方の何らかの参考になれば幸いです。

著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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