ハイキングコース紹介埼玉県の山

二子山:熊が上から降ってこない限り大体生きて帰ってこられる秩父の狂気岩峰

二子山とは

埼玉県には有名な「二子山」が2つあります。1つは横瀬町にある二子山(883m)、もう1つは小鹿野町にある二子山(1166m)。前者は区別して「横瀬二子山」と呼ばれることがあり、この記事で紹介する後者は「秩父の二子山」と呼ばれることがあります。秩父二子山はスリル満点の岩峰で、クライミングの装備と経験が必要な上級コースのほか、一般コースもあります。

秩父の二子山

この記事で紹介するのは坂本バス停から魚尾(よのお)道を北上し、国道299号線を一旦南下してから西岳登山口に入り、二子山西岳・股峠・東岳と縦走し、ふたたび股峠を経て坂本登山口から坂本バス停へと戻る距離約7km・歩行時間6時間の比較的短時間のコースです。しかし危険な箇所も多く、というか危険な箇所だらけなので、ハイキング初心者の方にはあまりおすすめできません。

秩父の二子山

目安としては、同じ埼玉県の伊豆ヶ岳の男坂(クサリ場)が怖いという方、極度に疲れた時に急斜面でバランスを崩してよく転ぶことがある、という方はやめておいたほうがよいでしょう。

その上で言うと、三点支持による岩登りの経験・中程度以上の体力・高い集中力があれば、難しそうな岩場でも「どう登ったらいいか」の正解は必ず見い出せる山だとも思います(とりあえず行ってみて、もし正解が見えなかったら勇気ある撤退をして、いつかまた再挑戦すれば良いのです)。

秩父の二子山の岩

クライマーが登る上級コースでは毎年のように死亡事故が起きていますが(令和4年は2人・令和3年は1人)、一般コースであれば過信せず、かつ極端に怖がらずに一歩一歩進んでいけば、充実した時間を味わって帰ってこられる「濃い」山です。

ただし、たまに岩の上から熊が降ってくることもあるようなので、熊鈴鳴らしはもちろんのこと、大声による威嚇とパンチ・キックの練習をしておく必要もあるかもしれません。

秩父の二子山の切れ落ちた岩稜

あらためて二子山の詳細に戻ると、西岳と東岳から構成されています。西岳と東岳の中間にあるのが「股峠」。さらに西岳は「西峰・中央峰・東峰」の3セクションに分割できます。東峰と股峠のあいだには「上級コース」と「一般コース」があります。その他のルートに上級・一般コースの区別はありません(この記事ではクライマー向けの上級コースについては触れません)。

秩父二子山の構成

登山ルートは主に4パターン考えられます。

  1. 坂本バス停〜西岳登山口〜西岳〜股峠〜東岳〜股峠〜坂本登山口〜坂本バス停の周回コース(本記事で紹介)
  2. 上記の逆コース
  3. 坂本バス停〜股峠〜東岳〜股峠〜西岳〜股峠〜坂本バス停(半分ピストン)
  4. 倉尾登山口〜股峠〜東岳〜股峠〜西岳〜股峠〜倉尾登山口(マイカー利用で超短時間)

分県登山ガイド「埼玉県の山」では1番が紹介されています。最近ポピュラーなコースは2番の逆まわりという印象を受けますが、風景の素晴らしさという意味では、私も1番が好みです。

二子山へのアクセス情報

二子山への交通アクセス情報です。最寄り駅は西武秩父線・西武秩父駅。ここで西武バスに乗り「小鹿野町役場」で一旦下車し、別のバスに乗り換えて終点「坂本」で下ります。朝の9時頃に西武秩父駅にいれば10分くらいでバスが来て、坂本にはおおむね10:30頃の到着です。

■ 二子山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)

帰りは坂本発・西武秩父行きの最終バスがおおむね16:20〜30分のあいだ。すると行動時間はちょうど6時間くらいになります。体力や時間に余裕がない場合は、東岳をあきらめて西岳に集中すると1時間は短縮できます(これだけでも充分に楽しめます)。マイカーで来る場合は坂本登山口または倉尾登山口に駐車スペースが数台分あります。

二子山登山の装備について

二子山の岩稜ではトレッキングポールがほぼ使えません。しかし西岳登山口〜坂本下降点手前のクサリ場までの山腹道、また股峠〜坂本バス停までの沢沿いの道などはかなり傾斜のきつい箇所もあるので、そうした場所では活躍すると思います。重量が気にならない方は携帯するのもありでしょう。ただし西岳〜東岳間では、ストックはほぼしまいっぱなしになります。

岩場は素手で登っている方も多いですが、岩稜の石灰岩はとがっていてもろいものも多く、握る場所が悪いと手のひらに細かい傷ができることがあります。心配な方はグローブも用意していったほうが良いでしょう。

シューズはミドルカット以上(岩に足首をぶつけて怪我をしやすい)。稜線では風が強いことも多いので、ウインドブレーカーまたはレインウェアの携帯は必須です。

ヘルメットはどうすべきでしょうか。私自身は、二子山の岩稜では一応かぶっています。上級コースでなければ必要ないとも言う人も多いかもしれません。しかし万一滑落した場合に頭を保護できることで、救命率がわずかながら上がることは間違いないでしょう。一般コースなら落石の心配は、クサリ場に先行者がいない限りほぼありません。最終的には自己判断となるでしょう。

先にも書いたように岩稜帯でクマに襲撃された事例もあるので(2022年)、そういう時もヘルメットが役に立つ可能性は高いように思います。

私が歩いた二子山

ここからは私が2023年4月初旬、実際に二子山を歩いてみた時の模様をお伝えします。歩いたのは上で紹介した「1.坂本バス停〜西岳〜東岳〜坂本バス停」の周回コースです。

坂本バス停〜ローソク岩分岐

それではまいりましょう。この日は平日で西武秩父に8:59着。9:10のバスに乗り、写真下の坂本バス停には10:30頃に着きました。遠方の方はこれ以上早く来るのは難しいと思います。なお坂本バス停には立派なトイレがあります(坂本登山口にも簡易なトイレあり)。周囲に自販機などはありません。

坂本バス停

坂本バス停からは、一旦車道をちょっとだけ引き返して右側への分岐に入ります。299号線を進んで行っても最終的に登山口には着くのですが、こちらは距離を大幅に短縮できるショートカットになっています。

坂本バス停付近

右側に注意をしながら車道を歩いていくと、やがて民家のあいだに「二子山・坂本登山口」を示す看板があります。これから向かうのは西岳登山口ですが、途中までは一緒です。

坂本バス停付近

しばらく歩くのは仁平沢沿いの「魚尾道(よのおみち)」。たまにロープがあったりしますが、距離は長くありません。

魚尾道

やがて299号線に合流します。この写真の奥側に登っていくと坂本登山口。ここでは逆方向に南下します。初めての方はここまでが間違えやすいかもしれないですね。ちなみに写真にはパトカーが映っていますが、車上荒らしが発生することがあるのでパトロールをしているのかもしれません。駐車される際は気をつけましょう。

坂本登山口と西岳登山口との分岐

299号線を10分ほど南下していくと、右手に大量のソーラーパネルが見えてきます。ここが西岳登山口になります(小さい道標あり)。

西岳登山口

しばらく尾根と山腹道歩きです。西岳登山口の標高が642mで、山腹登りの終点になるローソク岩分岐は1000mくらいになるので、まあまあの勾配を登っていくことになります。

西岳登山口の尾根道

最初のランドマークはこの送電線鉄塔。ここで右手を見ると…

西岳登山口の送電線鉄塔

これから登る二子山がドカーンと見えます。これからあの稜線を歩くのです。

二子山(秩父)

左が西岳、右が東岳。あいだで落ちくぼんでいるところが股峠になります。西岳の右端のこちらを向いている岩壁が上級コースになり、一般コースは向こう側(北側)を通過することになります。

二子山(秩父)

直進すると、東京・伊豆大島の砂漠を思わせるような広漠としたザレ地が山腹にひろがっています。このあたりが「ローソク岩分岐」。写真のまんなかに見えるフェンス沿いのトレイルがローソク岩に向かう道。今回は直進します。

ローソク岩分岐

クサリ場〜西岳

ローソク岩分岐からかなり急峻なザレ場を登っていくと、有名なクサリの壁が登場します。約7mあると言われ、この上が「坂本下降点」と呼ばれます。かなり垂直に近い壁ですが、よく観察すると岩肌に手がかり・足がかりを発見できます。ただし大きいカメラなどはしまう必要がありますし、足を大きく上下することもあるので登る前に服装をあらためて調整します。

坂本下降点のクサリ場

登り終えて見下ろすとこんな感じです。伊豆ヶ岳・男坂のクサリ場を何度か登ったことがある方なら、慎重に取り組めば行けるとは思います(距離はこちらが断然短い)。しかしここが無理だと思ったら、撤退も検討しましょう。

坂本下降点のクサリ場

坂本下降点には「群馬県神流町(かんなまち)」を示す看板があります。二子山西岳の西端は埼玉・群馬県境になっているわけです。

坂本下降点 埼玉・群馬県境

振り返ると、石灰岩採掘中の叶山(かのうさん)の白い山頂が見えます。叶山は秩父セメントが開発しており、昭和57年(1982年)10月16日以降は登山禁止になっています。

叶山

いよいよ岩稜歩きのはじまりです。ここは西岳の西峰。

西峰への岩稜

二子山の岩稜には巻ける道(脇道)もたまにありますが、岩を登り下りしないと絶対に前に進めない箇所が大部分を占めます。しかし「イチかバチか」で危険な動きをしなければならないようなところはほぼないので、落ち着いて取り組むだけです。

西峰への岩稜

ヤブや岩で擦れるので、ザックは小さめのほうが良いと思います。ウェアも脚や腕の動きを妨げない、動きやすいものがよいですね。

西峰への岩稜

長瀞渓谷の「ポットホール」を思わせる大小様々な穴をよく見かけます。雨でこうなったという話を聞いたことがありますが、一部だけこんなふうに削れるのでしょうか。おもしろいですね。岩好きにはたまりません。

西峰への岩稜

西岳〜中央峰

比較的平坦な西峰を越え、いよいよ眼前にそびえる中央峰を目指します。あそこまで、ちょっと下って登り返すことになります。

中央峰

両側が極端に切れ落ちている痩せ尾根は、落ちたら確実に終わりなのですが、落ちなければ別に問題ないという、禅問答のような気持ちになります。油断は禁物ですが、むしろ怖がらずに自信を持って着々と歩いていったほうがより安全かと思います。

中央峰への道

とはいえ、振り返った岩の上から熊が降ってきたら打つ手はあまりないかもしれません。ヘルメットをかぶっているので、伏せて首を守っていれば何とかなるでしょうか…

ここからの中央峰の眺めは絶景です。二子山の山容は、秩父の中では武甲山や両神山と並んで相当な異形だなぁとあらためて思わされます。そしてここを最初に歩こうと思った人もすごいものです。ボーッとする余裕が生まれないので、集中・充実した時間が続きます。これほど無心になれる時間は、日常ではほとんどありません。

中央峰

二子山中央峰(1166m)に到着しました。後で訪れる東岳のピークよりも広い山頂で、ギリギリ5人くらいが岩に座ってごはんを食べられそうな広さです。山頂標識は割れて壊れてしまっており、板の部分が2つになって地面に置かれています。杭の部分も転がっています。三角点があります。

二子山中央峰

振り返ると通過してきた西峰、その向こうにはわずかに叶山が見えます。

叶山

そして… 南には雄大な両神山の姿が!

両神山

中央峰〜股峠

中央峰からのパノラマを堪能したあとは、股峠を目指して下っていきます。たまにこんなクサリがあり、これも落ちたら終わりなのですが、それは伊豆ヶ岳のような低山でも同じことです。集中して楽しくクリアしていきます。

中央峰先のクサリ

やがて道標があります。少し戸惑うかもしれませんが、ここで山の北側に下っていくことになります(左折)。直進すると上級コース、左折すると一般コースです。

股峠との分岐点

結構な急斜面で、ロープやクサリが出てきます。こういうセクションではストックを使っても良いかもしれませんが、私はこの日は持参しませんでした。

一般コース

中央峰から一度北上した後に、山腹道を東南に進みます。滑りやすい・歩きにくい箇所がたくさんあります。なおこの付近にも「上級コース」を示す道標がありますが、それは股峠から上級コースに入る入口に至る、という意味であり、この北側の道を歩いていっても問題ありません(少しわかりにくいかもしれない)。

一般コース

最後に急斜面の尾根を下っていくと、道標のある股峠が見えてきます。南に右折すると坂本登山口、北に左折すると倉尾登山口。直進すると二子山東岳に至ります。ちなみにこの股峠ではカタクリを見かけました。

股峠

股峠〜東岳

東岳の序盤はちょっとだけ尾根道の急登です。

二子山東岳

やがて岩稜帯になるので、左側から登っていきます。

二子山東岳

中間テラスと呼ばれる開けたポイントがあり、振り返ると西岳がド迫力。ここも絶景ポイントです。記念写真などを撮る・撮ってもらうのに絶好のスポットではないでしょうか。

中間テラス付近から見た西岳中央峰

股峠から東岳までは、坂本下降点〜西岳中央峰までの距離の半分以下なので、わりとすぐです(股峠から約40分)。

眼前に見える東岳

ここはどうやって登るんだ? と頭を使うセクションは、東岳にもあります。しかし手がかりは豊富。身体の柔軟性は求められるものの「これ絶対無理」という箇所はなく、あったとしても大体巻道があります。あと怖さよりも楽しさのほうが勝ります。

東岳の岩

東岳ピーク(1122m)に到着しました。少し狭めの山頂で、岩もゴツゴツと座りにくいものが多いのため尻パッドを持ってきたほうが良いと思います(忘れてきた)。

東岳ピーク

東岳からの眺望は、両神山も良いのですが西岳からの眺めほどではなく、やはり振り返った西岳中央峰の姿が圧巻です。

東岳ピー岩から見た西岳

東岳〜股峠

それでは下山しましょう。下はこの日撮った写真のなかでいちばん気に入っているものです。SUMMILUX 9mm/F1.7という超広角レンズで撮りました。ブログ記事では縦写真が使いにくかったりするのですが、これはどうしても縦で撮っておきたい1枚でした。この狭く薄い石尾根を引き返します。

東岳から西岳を望む

今度は岩稜帯の北側を中心に下っていきました。巻道のようなものです。たまに目立たないピンクリボンがあり、踏み跡があるのでわかります。

東岳の巻道

クサリも出てきます。巻道とはいえなかなか急峻なところもあります。

東岳のクサリ

無事、股峠に帰還しました。

股峠

股峠〜坂本登山口

股峠から坂本登山口に至る道は傾斜がなかなかにきつく、道も荒れているのでちょっとストックが欲しくなります。下は下ってきた道を振り返ったところ。

股峠〜坂本登山口に至る道

仁平沢の源頭は枯れ、見た目以上に歩きにくい道です。滑らないように踏ん張ったり、時には飛んだりすることもあります。

仁平沢

途中から水の湧く仁平沢を下っていくと、右手の杉の植林に登山道が見えてきます。

仁平沢沿いの道

やがて坂本登山口に至ります。ここは国道299号で、下っていくと朝に坂本バス停から登ってきた道に合流します。車道沿いにずっと下っていってしまうとバス停まで相当な距離で迂回することになってしまうので、気をつけましょう。

坂本登山口

あらためて秩父二子山の感想をまとめてみると、まず濃密な時間をすごせるという印象がひとつ。そして短時間ながらも運動強度はやや高め。岩稜までのアプローチは急斜面が多く、岩の登降も体力を使います。しかし、全身運動になるので気持ちが良いですね。足だけでなく手も多く使う山、なのがおもしろい。そして、日常をすべて忘れられる山でもあります。

もし体力的に不安な場合は、西岳だけを楽しんで帰るというのも大いにありだと思います。西武秩父駅からバスで90分ということもあって行動時間は限られてしまいますが、遠いけれど遊びに行きたい山だなといつも思います。

岩が凍る冬期や雪・雨はもちろん、雷や暴風といった悪天候の場合は登れない山なので、休みの日が晴天でしたら興味のある方は是非挑戦してみてはどうでしょうか。熊鈴だけは忘れないほうが良いですね!

著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

ヤムパパーをフォローする
やまうぉーくYAMAWALK
タイトルとURLをコピーしました