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棒ノ折山:ゴルジュのある峡谷・尾根歩き・広々とした山頂の三点セットを楽しめる大人気のツンデレ山

棒ノ折山とは

棒ノ折山(ぼうのおれやま)は埼玉の奥武蔵・東京の奥多摩との境界にある標高969mの山です。ゴルジュ(フランス語で「喉」の意)と呼ばれるダイナミックな岩壁のある峡谷の沢登りに加え、見晴らしの良い広々とした山頂も大きい魅力。スリル・達成感・歩きごたえ、と揃っているので一年を通して大人気の山です。週末は多くの人が訪れ、平日でも人に合わないことはありません。

棒ノ折山頂

棒ノ折山は地理院地図では「棒ノ嶺」と記されており、読み方は「ぼうのれい」と「ぼうのみね」の二通りあります。Wikipediaの説明では「鎌倉時代の秩父の武将であった畠山重忠がこの山を越える際に杖として持っていた石棒が折れたことから名が付いた」とされていますが、打田鍈一氏の「埼玉県の山(山と渓谷社刊)」では全く違う由来が説明されています。

同書によると、棒ノ折山の山頂はかつて「草ぼうぼう」だった。そのため「草ぼうぼうの尾根(=高いところ)」と呼ばれ、やがて「ぼうのおね」と短縮され、それがさらに「ぼうのおれ」へと変化した。そのため「棒ノ折(ぼうのおれ)」や「棒ノ嶺(ぼうのれい)」と読めば語源は残るものの「棒ノ嶺(ぼうのみね)」と読めば語源からだいぶ離れる、という興味深い話題がありました。

仮に畠山重忠の石棒に由来があったとしても「ぼうのみね」と呼ぶと語源からは遠ざかることになりそうですね。

本記事では「棒ノ折山」で表記を統一しますが、奥武蔵在住の方とお話していると「ぼうのれい」という名前が出てくることが多い印象です。

棒ノ折山へのアクセス情報

棒ノ折山は埼玉県側からも東京都側からもアクセスできます。埼玉側は西武秩父線・飯能駅から名郷(なごう)方面のバスに乗り、河又名栗湖(かわまたなぐりこ)入口で下車(乗車時間約40分)。東京側はJR青梅線・川井駅からバスで上日向または清東橋で下車します。

■ 棒ノ折山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)

河又から登る場合は山頂までのピストンも良し、周回コースも良し。山頂から奥多摩側に降りても良いですし、その逆もあり。定番は河又から沢沿いの「白谷(しらや)沢コース」を登り、尾根沿いの「滝ノ平(たきのひら)コース」を下る周回コースで、距離8.5km・標準コースタイムは4時間30分。しかし、実際には5時間は見積もっておいたほうが良いとは思います。

白谷沢コースの行程・距離

山頂手前の権次入(ゴンジリ)峠では、黒山・小沢峠に至る道も分岐しています。また岩茸石(いわたけいし)では滝ノ平コースのほか、名栗川橋バス停に至る湯基入(トウギリ)林道に至る道への分岐があります(こちらは林道歩きがやや長いものの、体力が尽きたり足を痛めた時に選んでも良いでしょう)。

この記事では以下で、白谷沢コースを登り、滝ノ平コースで下ってくる時の模様を筆者の歩行記とともにご紹介します。

私が歩いた棒ノ折山

ここからは2023年3月初旬、筆者が棒ノ折山を歩いた日の記録です。飯能駅を平日の朝8時少し前に出発するバスに乗り、行動開始は8:30頃。まずは名栗湖(有間ダム)に向かって歩いていきます。途上、立派なトイレのある休憩舎と「さわらびの湯」という温泉を通り過ぎます(土日祝なら「ノーラ名栗・さわらびの湯」にもバスが停まるので便利)。

さわらびの湯手前のトイレ

ほど良いウォームアップになる坂道を歩いていくと、有間ダム(名栗湖)に着きます。左にある堰提をわたり、下の写真のちょうど真ん中奥あたりにある白谷沢コースの入口に歩いていきます。ちなみにこのあたりはクマタカがよく飛んでいるので、野鳥写真愛好家の姿をよく見かけます。この朝も名栗湖の上をクマタカがゆったりと飛んでいました。

有間ダム

白谷橋(しらやはし)という小さい橋を渡ると左手に登山口があります。登山届のポストもあるので、ソロで体力に自信のない方は出しておいたほうが良いでしょう。

白谷沢コースの入口

この白谷沢左岸の道ですが、冬は凍結していることがあり、急斜面の山腹道なので油断しないようにしましょう(滑落による死亡事例が報告されています)。滑りやすい露岩もあります。しかし、私は何度かここを歩いているのですが、今回は序盤の道が少し安全に修復されていたように見えました。

白谷沢コース

最初のランドマークは「藤懸(ふじかけ)の滝」。二段になっている可愛らしい小滝です。このあたりから沢登りがはじまります。

藤懸の滝

やがて両側から迫る大きい岩壁が見えてきます。これが「第一ゴルジュ」。この日は水が少なかったのですが、大雨の後の日などは足が濡れるほどの水量になることもあるので注意しましょう。凍結時はもちろん滑りやすいところです。夏は涼しく、冬は激寒な名所です。

第一ゴルジュ

沢の右岸を歩いていくと今度は「天狗滝」が現れます。これも小規模な滝なので、水量が少ない日は目立たないかもしれません。

天狗滝

次は「第二ゴルジュ」。夏は清涼感が抜群ですが、冬になると氷柱ができています。極端に歩きにくいところはないですが、足元に気をつけて進みます。

第二ゴルジュ

岩に寄って撮ってみました。伊豆ヶ岳などでも見られる「チャート」と呼ばれる生物死骸由来の堆積岩で、迫力があります。

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第二ゴルジュを過ぎるとクサリ付きの石段があるので登ります。ここは、登り終わる直前に名所「白孔雀ノ滝(しろくじゃくのたき)」がよく見えるポイントがあります。

第二ゴルジュ先の石段

これが白孔雀ノ滝です。てっぺんから下まで画面に収めてみましたが、この日は水量が少なかったので迫力に欠けています。「ゴー」というより「ジャー」という感じの流れでした。

白孔雀ノ滝

沢登りを存分に堪能できるのは白孔雀ノ滝まで。それからは沢沿いの尾根道を登ると、やがて林道に出ます。渡ってすぐのところにベンチのある休憩場があるので、小休止しても良いでしょう。ここからは体力を使う尾根道です。ストックを使う方はここで出すのが良いでしょう。

林道出合

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先の休憩場のすぐ先は木段になっているのですが、段差が大きいので歩くのに適しません。両脇を歩いたほうが良いです。

岩茸石への山腹道

気持ちの良い山腹道が続きます。これをもっともっと急斜面にして道を細くして崩壊止めの板をなくすと、熊倉山の道に似てきます。

岩茸石への山腹道

やがて辿り着くのが「岩茸石(いわたけいし)」。茸のような巨岩とベンチがあり、岩の向こうが帰路となる滝ノ平尾根。右に行くと湯基入(トウギリ)林道です(名栗温泉大松閣・名栗川橋バス停に至る)。

岩茸石

日当たりの悪い時間帯だったので岩茸石の明るい写真は撮れませんでした。しかし、名所というよりは目印という感じです。尾根上にドカンと鎮座しているのでインパクトはあります。

岩茸石

岩茸石の先は木段になります。が、ここは崩壊が進んでいるので通行しないように、との張り紙があります。ここ数年土が流れてしまっている状態なのですが、行政も修復の予算がないのだと思います(撤去したほうがむしろ歩きやすいかもしれません)。両側の道は、少しザレていますが歩けます。

権次入峠への石段

尾根をひと登りすると、開けた台地が見えてきます。これが「権次入(ごんじり)峠」で、数台のベンチがあり黒山・岩茸石山・小沢峠に至る道が合流しています。

権次入峠

その後は平坦基調の美しい尾根道を歩き、根の張り出した尾根をさらにひと登りすると、ようやく棒ノ折山頂です。ススキ(茅)がたくさん生えており、なるほど確かにかつては「草ぼうぼう」だったことが想像されます。山の茅場だったのでしょう。夏〜秋にかけてはトンボもたくさんいます(棒ノ折山で撮ったミヤマアカネアキアカネの記事があります)。

棒ノ折山・山頂

棒ノ折山の山頂標識のそばには立派な桜の大木があります。開花期はもちろん紅葉の時期も多くの登山者が集まります。広々とした感じは、奥武蔵・横瀬町の日向山の山頂に少し似ている気がします。

棒ノ折山・山頂

棒ノ嶺は東京都の山でもあり、山頂広場の東京都側には埼玉側とは違うタイプの山頂標識も見られます。こちらのほうが古そうですね。

棒ノ折山・山頂

下は東京都が用意した道案内板。奥多摩側に下りるのであれば、ここから大丹波川(おおたばがわ・おおたんばがわ)沿いの上日向(かみひなた)バス停が最も近くなります。

棒ノ折山・山頂

北〜北東側に大展望が広がります。双眼鏡を持参すれば、地図を片手に山座同定を楽しめます。武甲山・伊豆ヶ岳のほか、埼玉副都心、群馬の榛名山まで見られます。

棒ノ折山・山頂

関連記事:私がハイキングで使っている軽量な双眼鏡 (OLYMPUS 8×25 WP II)

あずまやとベンチがいくつかあるのでここで食事休憩するのが良いですね。山頂の奥側にも大きいテーブルがあります。しかしあずまやは小さく、ベンチも週末は混んでいることもあるので、シットパッドのような敷物も持ってくると良いでしょう。ちなみに夏はスズメバチが出るので、虫除け対策も必要です。

それでは下山しましょう。まずは岩茸石まで戻ります。岩の左にある狭いスペースから滝ノ平尾根コースに入ります(標柱には「河又バス停方面」とだけ記されています)。はじめて来た時はどこを通ったらいいのか悩みました。

岩茸石

滝ノ平尾根は3度ほど林道を横断する単調な道で、ランドマーク的な地点は下の「白土(しきじ)平」くらいでしょうか。ここも休憩適地です。

白土平

白土平からは有間ダムが少し見え隠れしています。

白土平

滝ノ平尾根は下るにつれて露出した太い根が増えてきます。怪我をする方が多いのでしょう、「転倒注意」の張り紙が多く見られます。季節によっては日当たりも悪く、滑りやすいザレも多いのでここは集中力が必要です。風景はあまり楽しめないので、無心で足元に集中して下ります。ここでは私は観光モードから運動モードになってしまいます。

滝ノ平尾根

ようやく里に下りると小さい赤い橋が見えるので、それを渡ると出発点・河又バス停近くのトイレ付き休憩舎に戻ることができます。

滝ノ平コース入口

棒ノ折山について思うのは、まず体力は結構使うということ。書籍「埼玉県の山」ではコース定数21で、伊豆ヶ岳〜吾野(コース定数25)や武川岳・二子山縦走(コース定数24)より少ない体力で登れるはずなのですが、甘く見ているとバテるかもしれません。沢登りをじっくり楽しむためにも、時間は少し余裕を持ったほうが良いと思います。

あとは天気が変わりやすい山であるようにも思います。白谷の沢と開けた尾根といった地形条件が重なることで、空気の急激な変化が起こりやすいのでしょうか。ゴンジリ峠から山頂にかけては、突然雪が降ってきたり雷が鳴ったりします。

白谷沢は真夏でも涼しいですが、尾根に入ると湿度が急に上がり、風も吹かなかったりするので、夏場は熱中症にも注意が必要。秋冬はレインウェアと頭・顔を覆うヘッドウェアも必携です。道も天気も急に優しくなったり厳しくなったりと、ちょっとツンデレ・デレツンなところのある山かなと思います。

コース的には下りの滝ノ平尾根はやや単調で好みではないのですが、白谷沢からの登りは水・岩・尾根と、変化に富んでいて飽きません。秋から春にかけてがやはり歩きやすいですが、春夏は虫対策をお忘れなく。虫除けになるハッカ油スプレーやポイズンリムーバーを携行しましょう。

著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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