新島の宮塚山歩き記事(全3回)の最終回です。観光パンフレットでも紹介されている定番の富士見峠展望台、その先にある「宮塚山の歩いていける最高点」である新島中継局にて絶景を愉しんだ後は、地図上の道路の果てまで行ってみることにしました。この旅では事前の下調べは行わなかったので、予備知識ゼロで地理院地図だけを頼りに歩いていきます。
ここまで歩いてくる人はほぼゼロ?
これから目指すのは、下の地理院地図で十字マークがあるエリアです。道路が切れていて、そこを中心とした円のような道が見えます(灰色の線)。私が持っている紙版の地理院地図「新島」(NI-54-27-10-3 平成27年7月1日発行1刷・1/25000)では、切れた道路の先に赤い小さい箱が描かれています。それは「普通建物」を意味します。さらに円状の線も、二重点線で描かれています。それは「庭園路」を意味します。
つまり富士見峠コースの行き止まりには「人工的な構造物」があり、そのまわりを「ぐるりと細い道が取り囲んでいる」ことが想像できます。また、その一帯は平坦な台地のようになっていて、近傍の最高点は標高393m。真下には新島北部の若郷地区と南部の本村を結ぶ「平成新島トンネル」が通っていることがわかります。
新島中継局から歩みを進めると、ひときわ高いピークが目に入ってきます。宮塚山頂(標高432m)です。山頂に至るトレイルの痕跡らしきものは見かけましたが、一般的には登頂できないとされています。私はピークハントにはあまり興味がないので、そちらの冒険はスルーします。
■ 地理院地図上での宮塚山頂の位置。舗装路から徒歩道が伸びているものの、山頂への道の記載はなし
中継局から先の道では、舗装がないところがたびたびでてきました。また、この日は有害鳥獣パトロールの方がシカ柵整備の仕事をされていたようで、通りすがりに「こんにちは」と挨拶したところギョッとされました。普段こんなところまで歩いてくる観光客は、あまりいないのだと思います(驚かせてしまってすみませんでした)。
道路の果てが近くなってくると、左右に未舗装の林道が見えました。これが地理院地図Web版では灰色の線、紙版では二重点線で描かれている「庭園路」の入口です。
新島ロラン局とは
道はやがて細い鎖に阻まれました。何かの敷地の入口のようです。クルマが進入できないのは間違いないですが立入禁止の札はなく、暖簾をくぐるようにして少しだけ中を観察させてもらうことにしました。
鎖の先にはコーガ石の大きい門柱のようなものがあり、「新島ロラン局」と読める立派なプレートが埋め込まれていました。予備知識なしでやってきたので、ロランって何だろう? と自問しました。フランスにロマン・ロランという作家がいるけれど、関係は…まあゼロだろうな。それとも山の上のレジャー施設、リゾート施設だったのだろうか。離島ブームの頃は観光客の数がすごかったというし、みんなが遊べるような施設でもあったのではないか…
さて新島・式根島の旅を終え帰宅してから調べたところ、この「新島ロラン局」は「地上系電波航法システムの送信局」だったことを知りました。平たくいうと、GPSが普及する前の時代に、似たような役割を持つ電波を発していた施設でした。「ロラン」は”long-range navigation”の頭文字から採ったもの(LORAN)。そうか、ここは先に訪れた新島中継局同様、かつては重要な通信インフラ施設だったのか…
新島ロラン局の電波は船舶の運行のためによく活用されていたようですが、2014年2月1日に廃止されたそうです。ちょうど筆者訪問時の10年ほど前になります。しかし今では建物はきれいさっぱり取り除かれていてその基部さえ見当たらず、何かの廃墟とは思えないほどです。緊急時にはヘリポートとして使えそうな雰囲気もある、ほぼ更地の状態でした。
ロラン局跡地のすぐ左手に、小さい庭園路が伸びていました。地理院地図電子版には描かれていませんが、紙版では行き止まりの二重点線で表現されています。
わずかに登っていきます。何があるのだろう…
ほどなくして木々が伐採され、平らに均された土地が現れました。ゴミ捨て場という感じではなく、周縁に寄せられているのは朽ちた木がほとんど。何らかの目的で伐採・抜根したのでしょう。工事は止まっているように見えました。ここに何か建てる予定があったようにも見えます。
本当に何もないところなので、あとは引き返しました。ロラン局跡地の周囲は谷のように少し落ち窪んでいて、その谷に沿うようにして「庭園路」が走っているように見えました。これはロラン局からの下山中、左手側に見えた庭園路。全部巡ってくると相当な距離があるように見えたので、少し覗くだけにとどめておきました。
このあたりにもシカ罠が緊密に設置されていました。登山口からものすごい数の罠です。
下も庭園路の入口です。なお地理院地図を見ると、庭園路を伝って北上すると徒歩道に至り、その道を経由して北部の若郷地区まで歩いていけるらしいことがわかります。雰囲気的にも、時間さえあれば十分歩いていけそうに思いました。しかしロラン局から北は、地形図を見ると相当な急下降になっているのも読み取れます。いつか歩いてみたいところですが、今回は時間切れです。また、若郷まで歩くとしたら装備もそれなりに整えておく必要がありそうです(この日筆者は軽装でした)。
眺望が良いわけでも、目新しいものがあるわけでもないので、一般の観光客が新島ロラン局まで足を伸ばす理由は皆無かもしれません。しかし私は十分楽しめました。たまに聞こえる鳥の声を除くと他に物音ひとつしない静けさのなかにロラン局の跡地はあり、その静寂が心地良かった。
帰路はふたたび新島中継局に立ち寄り、海を眺めました。いや〜、宮塚山、いいところです。新島ハイキングといえば石山で終えてしまう人も多いかもしれませんが、富士見峠コースをこの電波塔まで歩かない理由はないでしょう。
今回の宮塚山歩きでは、新島はかねてより伊豆諸島における重要な「情報の拠点」であり続けてきたのだろう、という感想をあらためて持ちました。
宮塚山の道を全部歩いた時の所要時間
さて、全3回の記事でご紹介した宮塚山歩きの所要時間をまとめてみます。
登りの合計が1時間40分。下りはマイナス10分くらい。歩行時間が往復で大体2時間半くらいだとします。ロラン局ではそれほど長居しないかもしれませんが、富士見峠展望台と新島中継局ではゆっくり絶景を楽しみたいところ。するとプラス1時間。合計4時間ほど見ておけば、3つの記事で紹介したコースを無理なく歩いてこられると思います。
朝の7時か8時に出発すれば、ちょうどお昼頃に本村で食事タイムにできるでしょう。新島食堂MARUGOや夕浜亭でガッツリ食べるもよし、おにぎりで有名な「みかさ」でテイクアウトするもよし。その足で石山トレッキングコースを目指す、という一日に組み立てるのも良いと思います。
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