2022年5月の午後。伊豆ヶ岳〜子ノ権現コース(埼玉県飯能市)の帰路、西武線・吾野駅近くの線路沿いの山腹道をトボトボ歩いていると、頭よりも身体が先に「ビクッ!!」と反応しました。道の真ん中に、赤と黒の毒々しい蛇が巨大なカエルをくわえたまま静止していたのです。ヤマカガシとヒキガエルです。
ヒキガエルには「ブフォトキシン」という強毒があるため、天敵(捕食者)が少ないとされますが、ヤマカガシはその毒に耐性があります。というより、ヤマカガシが毒蛇である理由は好物のヒキガエルが持つブフォトキシンがヤマカガシの毒腺に蓄積されるからなのです。
ヤマカガシの毒牙は上顎の奥まったところにあるのと、ごく短いせいもあり、不用意にガッツリ噛まれなければ被害はないとも言われているのですが、運悪く本気で噛まれた場合は人間でも血液が凝固して死んでしまうことがあるそうです。
それにしても両者とも死んでいるのかと訝ってしまうほど動きません。迂回して先に進もうと思うのですが、万一このヤマカガシが瞬時に標的をこちらに変えて飛びかかってきたらと思うと、ちょっと怖い。こんなに大きいヒキガエルが動けなくなっているのだから、甘く見ないほうが良さそうです(しかし後で調べてみたところ、人間に対する攻撃性は高くはないようです)。
というわけで、食事中に申し訳ないのですが、そのへんに落ちていた長めの棒でちょっとだけ突いてみました。しかし微動だにしません。(ヤマカガシは)反応はするので死んでいないのは間違いなかったのですが、消化中は他のことが一切何もできないようです。ここに天敵のイヌワシかクマタカが飛来してヤマカガシに襲いかかってきても、カエルから口を離すことなくそのまま食べられてしまうでしょう。なんともリスクの高い食事風景です。
ヒキガエルのほうは数回まばたきをしたものの、もう意識はないようでした(そもそもカエルに意識があるかどうかは知らない)。前に投げ出した両手の「もはやなすすべなし」感がすごい。こういう場面に遭遇すると、死というものは一瞬の出来事ではなく、ゆるやかなプロセスであることを再認識させられます。
何度も歩いたことのあるコースだったため、この日はこの時になってはじめてザックからカメラを取り出して撮りました。良い写真かどうかはわかりませんが、珍しいシーンを撮れたとは思うので、カメラはやはり持っておいて良かった。機材はOLYMPUS E-M5 IIIと12-45mm F4ズーム(どちらも小型軽量で防水性があってハイキング向き)。
ここから吾野駅に至るまでの道の先でも、ヤマカガシの幼蛇が何度か目の前を横切りました。子ノ権現から吾野駅までの里道は、個人的にはあまり好みでなく、何か食べようと期待していた有名な浅見茶屋も臨時休業だったためガッカリしながら歩いていたのですが、ヤマカガシの食事風景を見られただけでも価値のある一日になりました。