式根島の唐人津城(とうじんづしろ)を歩いてきたのでご紹介します。唐人津城は式根島ハイキングのハイライトと言えるような名所で、神津島の天上山や新島の石山に通じるところのある、岩だらけの崖と丘でした。想像以上に素晴らしいところで、個人的に多くの方におすすめいしたいスポットです。
地名の由来ですが、ここにお城があったわけではなく、「づしろ・つしろ」はかつて魚や人が集まる場所を意味したそうです。「唐人」は、ここが過去に外国からの船が漂着した場所だったことをうかがわせます。行ってみるまでは、城の廃墟だろうかと思ったりしていました。また、式根島では最も標高が高い109m地点もここにあります。
唐人津城へのアクセス
唐人津城へのアクセス方法は2通りあります。神引展望台の入口から分岐している遊歩道を西進してくるコース、または南の御釜湾(みかまわん)遊歩道から北上してくるコースです。神引展望台にあった下の地図看板を眺めると、位置関係がわかりやすいと思います。
個人的には神引展望台を眺めたあと、セットで唐人津城に向かうのが良いかなと思います(島の西側のハイキングコースはすべて一日で余裕を持って回れます)。式根島の野伏港からは徒歩30分で神引展望台入口までやってこられます。
唐人津城を歩いてみよう
駐車場のある神引展望台入口の左側に「唐人津城遊歩道」と書かれた看板があります。ここが入口です。唐人津城までは約15分の道のりです。
ゆるやかに少しづつ登っていく感じです。神津島の秩父山を歩いた時のことを思い出しましたが、比べるとこちらのほうが断然ゆるくてラクです。
タブノキの若木や松などのコニファーが入り混じった植生で、藪漕ぎとまではいかないもののトンネルのような道を歩いていきます。眺望はありませんが気持ちの良い小径です。
ずっと登り続けるのではなく、小さいアップダウンをくり返していきます。足元が特に悪いような箇所はなく、スニーカーでも歩けるレベルです。しかし唐人津城を十分に楽しむためにはハイキングシューズ以上が必要です。
やがてテーブルベンチのある分岐に至ります。唐人津城はこのすぐ右手にあります。
細道を抜けると、ウッドデッキになっているスペースに出ます。徒歩でしか入ってこられない場所なので利用目的がよくわからないデッキですが、ベンチもあるのでお昼休憩に良いと思います。もしかしたら、昔はここにシートを敷いて大人数で宴会をしたりしていたのでしょうか。1980年代の離島ブームの頃にそういう光景が見られたのかもしれないですね。
ウッドデッキから先がいよいよ唐人津城です。明確な踏み跡がわかるトレイルが一本。あとはよく見ると、左右への分岐もなんとなくあります。まずはこの踏み跡を辿り、誘われるがまま海が眺められるところまで歩いていくことにしましょう。
やがて左手奥に、白い丘陵が見えてきます。この向こうは崖になっていて、見えているあの稜線を後で歩くことになります。ちなみにこの記事には曇りの日、晴れの日、両方の唐人津城の写真があります(のべ2日分のミックスです)。
神津島の天上山や新島の石山に雰囲気が似ている、と書きましたが、石の色が白いところを除けば、伊豆大島・三原山の櫛形山エリア(「月と砂漠ライン」からアクセスできる、「もく星号墜落事故」の慰霊碑のあるところ)にも似た雰囲気です。
このあたりはまだ歩きやすいところです。歩きやすい道だけを選んで歩いていけば、特に危険はありません。ただ、ふらついた時などに脆くて鋭利なコーガ石が足首に当たって怪我をすることもありうるので、ハイキングをはじめたばかりの方であればくるぶしまで覆うタイプのミッドカットのシューズを履いていったほうが良いと思います。道から外れると浮石も多いです。
丘を登っていくと、稜線に出ます。左側に安全な巻道もあるので、高所恐怖症の方はそちらを行くと良いでしょう。
眼前に神津島と、無人島の祇苗島が見えてきます。私はここを2回歩いたのですが、うち1回はしゃがんで岩につかまらないと飛ばされそうになるほどの強い風がここで吹いていました。手の保護のために、グローブをはめておいたほうが良いです。またウインドブレーカーかレインウェアは必携です。
ふと来た道を振り返った時の風景に、驚きました。これはまるで秩父のクレイジーマウンテン・二子山じゃないか、と思ったのです。スケール感や歩行距離はあの小鹿野町の二子山の20分の1という感じではあるのですが、感動は決して劣らぬものがありました。
不注意で足を踏み外したら完全終了なところも、二子山と同じです。岩の登り降りなどはまったくありませんが、突風にあおられてバランスを崩すことは十分ありうるのでこの稜線を歩く時は油断しないほうがいいでしょう。
簡単には遊びに行けない大好きな秩父・小鹿野町の二子山のようで嬉しく思いました。注意を促す看板やロープ類はなく、少しだけガチな岩山登山の雰囲気があります。
新島で見られるコーガ石がここでも見られます。太古の昔には新島と式根島はひと繋がりになっていたという説があるのですが、十分頷けます。そのさらに前は神津島も繋がっていたのではないでしょうか(神津島北部の神戸山は別名「石山」といい、地質はこの唐人津城や新島の石山とよく似ていました)。
稜線の端まで歩いたあと、引き返して今度は反対側の奥まで歩いてみることにしました。オオシマハイネズや松で覆われている、あの緑の丘を目指します。あの松とオオシマハイネズは、式根島の岩山の風景の大きい特徴になっていますね。
松とハイネズの丘から、先ほど歩いたコーガ石質の険しい稜線を眺めたところです。小鹿野町の二子山で言うなら、東岳から西岳を眺めているような感じです。
下は別の日に、険しい稜線の先で丘の中腹に降りていった時の写真です。踏み跡のないところを歩いてみることにしたのでした。
伊豆大島の三原山と同じで、踏み跡から離れると一気に歩きにくくなり、滑ったら怪我をするような傾斜もありました。探検する時はそれなりの装備と気持ちでいたほうが良いでしょう。式根島は全体的にトレッキングポールが必要になるほどの道はありませんでしたが、ここ唐人津城では持っていたら活躍する箇所があると思います。
さて、西に何か入江に至りそうな地形があったので、向かってみることにします。ちなみに案内板などは一切ないので、自分の頭で考えながら探検します。
あ、きっとここじゃないか? と思いました。外国からの船が漂着して「唐人」が現れたところ。よく魚が釣れた「づしろ」。それはまさにここ、この先のことだったのではないか…
唐人津城は、さっと30分歩いて通り過ぎることもできれば、1時間ゆっくりのんびり過ごすこともできる場所でした。私は長居してよかったと思いました。お昼ご飯を食べるとしたら、ここ唐人津城か、次に向かう隈の井、どちらがか良いと思います。
先の「づしろ」とは反対側にある、松とハイネズの丘にもあらためて登りました。踏み跡が少ないのであそこを歩く人は少ないようでしたが、唐人津城の全体像がよく見える好スポットでした。
式根島は神引展望台を訪れた時点で「これはすごいところだ」と、その風光明媚さにすぐに魅了されたのですが、続いて訪れたこの唐人津城で私は完全に式根島の虜・式根島ファンになってしまいました。すごいぞ式根島。
観光パンフレットや自治体のサイトを眺めていた時は、正直ここまで素晴らしい経験ができるとは思っていなかったのです(あまり詳しい情報が得られなかったからですが、逆にそれが良かった)。なんというか、ほとんど労せずに気軽に歩いて行けるところに、伊豆諸島の魅力がギュッと濃縮されているような風景がある。そんな印象でした。
この時の旅では新島の羽伏浦キャンプ場に拠点を作り、式根島には連絡船にしきで間をあけて2回渡り、この唐人津城もたっぷり2回歩きました。この記事を書きながらも、また式根島に行きたくなっています。
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