ハイキングコース紹介埼玉県の山

楢抜山と周助山:コンパス操作と地図読みを覚えたい人にうってつけの道標なし低山

楢抜山・周助山とは

埼玉県飯能市の楢抜山(ならぬきやま・553m)と周助山(しゅうすけやま・383m)は、打田鍈一氏の「埼玉県の山(山と渓谷社刊)」では「展望絶無。読図トレーニングに特化した全山植林の尾根歩き」として紹介されており、「道なし!」のラベルが付いています。楢抜山は地理院地図に名前も出てこない山です。古くは西川材の産地だったため、杉の植林が中心です。

楢抜山・周助山

奥武蔵エリアではまだ歩いたことがない山だったので、筆者はコンパスと2万5千分1地形図を持参し、本も参考にしながら歩いてみることにしました。結果的には、親切な道標こそほぼ皆無であるものの踏跡は明瞭で、時折コンパスで進行方向を確認することで楽しく歩けました。コンパスの基本的な使い方と地形図読みに慣れたい方には大いに楽しめるハイキングコースだと思います。

この記事では「進行方向のネタバレなし」で、筆者が楢抜山・周助山を歩いた日の歩行記とともにコースを紹介します。

楢抜山・周助山へのアクセス情報

楢抜山・周助山コースは、楢抜山スタートの場合は西武秩父線・飯能駅で下車、名郷(なごう)方面へのバスに乗り河又(かわまた)名栗湖バス停で下車(乗車約40分)。その後、周助山から原市場(はらいちば)中学バス停に下りることになります。逆コースでも特に問題なく同じように楽しめる道だと思います。

■ 楢抜山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)

■ 周助山周辺の地理院地図(拡大・縮小できます)

原市場中学バス停から飯能駅への国際興業バス(時刻表)は、平日午後なら1時間に1便、土日祝ならおおむね2便出ています。「埼玉県の山」による標準コースタイムは4時間40分、距離7kmとされています。楢抜山までと周助山以降は少しだけ頑張る必要がありますが、コースの残り7割くらいはアップダウンも少なく、のんびり歩けます。

私が歩いた楢抜山・周助山

ここからは2023年2月下旬、筆者が実際に楢抜山・周助山コースを歩いてみた日の模様をお伝えします。河又のバス停は、棒ノ折山や蕨山・有間山への登山で利用されたことのある方も多いのではないでしょうか。バス停の少し手前のお店に飲料の自販機(京都弁を話す不思議な自販機)があるので必要なら何か調達しましょう。8:30頃から行動開始。

河又バス停

バス停から名栗湖への道を左に分け、名郷方面に車道を少しだけ歩きます。するとまもなく右側に「尾須沢(おすざわ)鍾乳洞」の入口を示す目立たない看板があるので、道路を渡ります。

尾須沢鍾乳洞入口

尾須沢鍾乳洞看板の裏には「この鍾乳洞はこうもり岩の名で親しまれ、現在地より約500m登る林の中にある。大小3つに別れ、以前は無数のこうもりが石筍(せきじゅん)の間を飛び交っていたが、今はその姿を見ることは出来ない。奥行きは浅いが電灯の用意が必要である。」と記されていました。

ダイナミックな巨石のあるワイルドな雰囲気の道ですが、問題なく歩けます。看板から鍾乳洞まで約500mを登ります。

尾須沢鍾乳洞に向かう道

尾須沢鍾乳洞が見えてきました。洞窟前の看板には「この鍾乳洞は高さ25mの岩壁の中にあり洞入口は3ヶ所あるが奥行きは不明である。左端入口の石佛は寛文12年建立で名栗地区最古、唯一の聖観音である。内部には無数の洞があり湧水、石筍がある。*狭い所は危険ですので入らないで下さい。ーー県立奥武蔵自然公園 飯能市」と記されています。

尾須沢鍾乳洞

中をじっくり眺めるのは次回にします(最終的には時間は充分だったので眺めていっても良かったかも)。天井が低く、奥行きは確かにあまりなさそうでしたが、ライト必須です。洞への入口は3つありました。

尾須沢鍾乳洞

下が「寛文12年建立の聖観音」。西暦でいうと1672年ですから、17世紀のものです。350年ほども前からここにある石佛、感動します。

名栗地区最古、唯一の聖観音

鍾乳洞の岩壁にはクライマーが使うビレイデバイスも見られました。後で登る楢抜山の手前にもクライマーに人気らしい岩壁がありました。

尾須沢鍾乳洞の岩壁

さて尾須沢鍾乳洞に着いたら、細い道を左に(北に)歩いていきます。洞窟前は狭い道なので気を付けましょう。

尾須沢鍾乳洞の左に続く道

その道はすぐ行き止まりになります。ここで西側の斜面を登っていきます。確かに登山道という感じではありませんが、踏跡がはっきり見えるのでなんとかなりそうです。わりと急登です。この日はコース全体を通じて、道が乾いていたせいか滑りやすいザレ場がいくつかありました。

尾須沢鍾乳洞からの急斜面

やがて平坦な、気持ちの良い尾根道に出ます。ここは歩きやすい立派な道。ただし「○○山→」といった標識は皆無です。25000分ノ1地形図(原市場)で現在地を確認しました。

楢抜山の円頂分岐に至る尾根道

楢抜山の手前で分岐に至ります。ちょっとした盛り上がりの円頂で、ピンクテープを巻かれた木や赤い杭などありました。

楢抜山に続く道

ここで道が二手に分かれます。片方が楢抜山、片方が仁田山(にたやま)峠に至る道です。道標はありません。

楢抜山に続く道

このあたりから地図とコンパスを使い、進行方向確認の練習をしました。現在地である円頂と、目的地である楢抜山をコンパスの側片で結び、「ノースマーク」をあらかじめ地図に引いておいた「磁北線」と平行にします。その後「磁針」と「ノースマーク」が重なるように身体を動かします。その時のコンパスの「進行線」が進むべき方向になります。

SUUNTOのコンパス

地図上の緑の蛍光マーカーはおおまかな方向をなぞったもので、全く正確ではありませんのでご注意

コンパスの使い方と地形図の読み方は、実際にその場でやってみないと身につきません。ここでどちらの道が正解だったのかは、興味のある方は是非実際に試してみてくださいね。

ではコンパスの進行線が示した道を下っていきます。少し大きめの岩が出てきました。

楢抜山への下り

下ってすぐ右手に岩壁があり、ロッククライミングエリアなので気を付けて下さい、という手書きの札がありました。

楢抜山への下り

楢抜山手前ではちょっとだけ急斜面を登ります(距離は短い)。

楢抜山手前の急斜面

楢抜山頂(乗車553m)に着きました! 三角点と手書きの山頂看板があります。

楢抜山山頂

見晴らしはあまり良くはないものの、枝のあいだから棒ノ折山がよく見えます。

楢抜山から見た棒ノ折山

ここで先の円頂(分岐点)に戻り、今度はもう1つの道を辿って仁田山峠を目指します。分岐から先は木漏れ日の美しい尾根道です。

仁田山峠に向かう道

やがて車道に出ます。ここが仁田山峠(本では410m、現地標識では401m)。

仁田山峠

このまま北上するのですが、登山道はどこか。左を見ると何やらありそうです。

仁田山峠

ありました。この尾根道が登山道。次の目標物は「鉄塔47号」です。標柱には「鉄塔48号に至る」とありますが、この道です(途中で分岐します)。

仁田山峠

ひたすら登っていくと詳細不明の祠があり、そこで鉄塔47号と鉄塔48号への道が分岐します。登り続けて鉄塔47号へ。途中で地元の方と少しおしゃべりを楽しみました(月初めに神棚に供えるサカキを採りにきた、とおっしゃっていました)。

鉄塔47号

「埼玉県の山」では、この鉄塔47号周辺は「展望なし」とされているのですが、南東方面がきれいに伐採されていてかなり良い眺望を得られました。だいぶ事情が変わったのかもしれません。

鉄塔47号からの眺め

これは原市場方面かと思います。ここは予想外に休憩にちょうど良い場所でした。

鉄塔47号からの眺め

一休みしたら次の目的地である「登戸(のぼっと。地理院地図では「ノポット」とされる)」に向かいます。ここからはしばらく平坦で歩きやすい道が続きます。

登戸に向かう道

途中で「鉄塔48号」との分岐を示す黄柱標識があるので、南進せずにそのまま西進します。地図も確認します。

鉄塔48号に向かう道との分岐

ふたたび車道に出ます。ここも道案内の看板は特にないので、これまで歩いてきた尾根道の続きを探します。

車道出合

見つけました。道標がないとはいっても「奥武蔵ロングトレイル」の札が随所にあるので、迷うことはないと思います。それでもあえて地図とコンパスで現在地・進行方向をたまに確認しながら歩いていきました。途中で「根藤(404m/410m)」という標識を過ぎました(地理院地図の404m地点)。

登戸に向かう尾根道

登戸(436m)に到着です。標識には「435.8m」とあります。特に見晴らしはありません。また、今回のコースは全体を通じてベンチなどはどこにもありませんでした。大休止するなら先の鉄塔47号がいちばん良さそうです。

登戸

登戸まで来ればコースの3分の2くらいです。次は最終目標地・周助山に向かいます。途中で石まみれの巨大な木の根を見かけました。ちなみにこの日、カモシカの新しい貯め糞は見ましたが動物との出会いはありませんでした。

木と岩が合体

周助山(388m)までの道は特に迷うこともありませんでした。「埼玉県の山」が書かれた頃よりもだいぶ多くの人が訪れるようになったからかもしれませんね。

周助山山頂

周助山のすぐ先で道が分岐します。よく見ると進むべき方向はわかりますが、地形図読みの練習をしたいのであらためてコンパスを使い確認します。

周助山先の分岐

原市場に向かって下っていくと巨大な倒木が。倒れ方が「こっち行っちゃダメ」な雰囲気なのですが、人がこんな巨木を動かせるわけもなく、進行方向も正しいのでこのまま直進します。

原市場に下る道

「周助山山頂に至る」という看板がありました。ここは右に下る道しかありません。

原市場に下る道

ここからは山腹道をジグザグに下っていきます。ザレていて滑りやすいところが多かった印象です。膝を痛めている方はトレッキングポールを使ったほうが良いかもしれません。

原市場に下る道

竹林があり、左手側に墓地がありました。周助山登山口です。

周助山登山口

このような民家の裏に出るので、右に歩いていきます。

周助山登山口

ちなみに周助山から登る場合、こうした看板があります。原市場中学校バス停付近には周助山方面を示す看板は見なかったので、少しわかりにくいかもしれません。

周助山登山口

交差点を渡ると右手に原市場中学のバス停がありました。この日は平日で、14:05のバスに乗って飯能駅に帰りました。

原市場中学校バス停

楢抜山・周助山を歩いてみた感想をあらためてまとめると「埼玉県の山」を読んで想像していたよりもだいぶ歩きやすく、迷うことも少ないコース、というものでした。ハイキング・登山慣れしている方なら地図もコンパスもなくても迷わないかもしれません。目印も豊富でした。しかし大きい危険がないぶん、あえて地形を読む、コンパスを積極的に使う練習をするのに大変良い山だなと思いました。

また展望自体は多くは望めないものの、鉄塔47号付近は見晴らしが良く、全体的に歩いていて飽きるところのない、気持ち良いコースでした。基本的に杉の植林ですが、ところどころ雑木林的な雰囲気もあり、人も少ないのでまた行ってみたくなります。次回は地図を活用して今回のコースから外れてみたいとも思います(近距離に車道や里があるので大きい危険なく挑戦できそうです)。

著者
ヤムパパー

秩父・奥武蔵・奥多摩・伊豆諸島がホームグラウンドの低山ハイカー。動植物の写真を撮りながら歩くのが好き。日帰りメイン時々テント泊。著述家・翻訳家

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